秋奈 VS 春華・夏波・冬子(1)
階段を登ってくる3人の足音。
秋奈は震えと冷や汗が止まらなかった。
「三日月ノ玉」の魔法を乗せた春華の声が聞こえ、体が動かなくなった。
そしてその後に下から聞こえた物音や声から、秋奈は最悪の事態を想像していた。
(多分……春姉と夏姉、ふーちゃんが……)
旦那と両親を殺した。秋奈はほとんど確信していた。
そして今、階段を上がって来ている。
その目的は考えるまでもない。自分と、子供達を殺すつもりなのだろう。
「ねえ、お母さん……体が、動かないよ……?」
「なんだ、これ……」
彗と宵には声をかけて起こしたが、春華の魔法は子供達にも効いていて二人とも動けない。
なんとか子供達だけでも逃がしてやりたいが、秋奈自身も体が動かずどうにもならない。
「くっ………!」
何かが起こってほしい。何か一瞬でも春華の集中力を断ち切るようなことが起これば、魔法は途切れる。
一度途切れてしまえば、自分はその間に「満月鏡」の魔法で子供達を隠すことが出来る。
だが、そんなこと都合よく起こるわけがない。自分と子供達はここで殺されてしまうのだろうか。
(ダメ、この子達だけでも……なんとか……!神様……!)
秋奈が強く念じたその瞬間、時刻は深夜の2時になった。
ボカアアアアンッ!!バコオオオオオンッ!!!!ドゴオオオオンッ!!!
突然、隣の子供部屋から大音量の爆発音が聞こえてきた。
(な、なに!?何が起こったの!?)
秋奈は慌てたが、外から同様に慌てる声が聞こえてきた。
「わっ!なに!?これ、何の音!?」
階段を登り終え、廊下を歩いていた三人はその音に驚愕し、騒ぎ始めた。
何が起きたかは廊下の三人にも、秋奈にも、宵にもわからない。
ただ一人、彗だけが「あ……お兄ちゃんの目覚まし時計」と小さな声で呟いた。
隣の部屋から爆音が聞こえ、その後に慌てる騒ぎ声が廊下から聞こえたとき、秋奈は体が軽くなるのを感じた。勾玉の魔法が解けたのだ。
朝、彗が兄に向けて仕掛けた悪戯は思いもよらぬ形で自分達を救ったのだ。
秋奈はすぐに枕元の満月鏡に飛びついた。
そして満月鏡を握りしめて魔力を込めると、満月鏡は淡く黄色い月光色の光を放ち、魔法が発動し、宵と彗の姿が消えて透明になった。
(でも透明にしただけじゃダメ。この子達が逃げる前に満月鏡を奪われたり、私が殺されたら魔法が解けちゃう。考えないと、どうすればいい……!?)
秋奈は急いで頭を回転させた。自分はそれほど賢い人間ではない。半端な仕掛けではすぐに賢い姉に見破られ、全員が殺されてしまう。
「宵くん、彗ちゃん、耳を塞いで!」
次に「三日月ノ玉」の魔法をかけられたら終わりだ。だが勾玉の魔法を防ぐ方法は簡単。聞こえなければ効かない。
秋奈は子供達に耳を塞がせ、自分の両耳を塞いだ。
次の瞬間、春華の声と思われる何かが聞こえた気がしたが、三人が耳を塞ぐのが早かった。体は問題なく動く。
秋奈は右手にスマートフォンを持ち、自分の右耳は壁に押し付けることで塞いだ。
震える手でスマートフォンのメモアプリを立ち上げ、彗が読めるようにひらがなのみで文章を書き上げ、子供達に見せた。
「にげる じゅんびを して」
────────────────
ガチャ、ギイイイイイ……
扉が軋みながら開き、春華と夏波、冬子は秋奈と子供達がいる寝室に入った。
子供部屋に彗と宵はいなかった。あったのは何故か深夜に爆音を鳴り響かせた忌々しい目覚まし時計だけ。三人はあの音の正体を突き止め、音を止めるのに思ったよりも時間を使ってしまった。
寝室に入ると秋奈の両脇に子供達二人が寝ており、胸まで布団を被り目を瞑っている。
「あら、三人とも寝てる?」
「バカブー子、そんなわけないでしょ」
冬子の短絡的な推測を、春華が怒りながら諌めた。
確かに一見すると、親子が三人で仲良く眠っている様にしか見えない。
だが、秋奈は満月鏡を持っている可能性がある。目に見えるものを信じるのは危険だ。満月鏡の魔法さえあればどんな変装も可能で、この光景全てが幻覚という可能性もあるのだ。
「あれ……春姉、夏姉。どうしたの?こんな時間に。もう一泊してくことにしたの?」
「ッ…………!?」
春華、夏波、冬子の三人は驚愕した。
返り血に塗れた春華、血が滴っている新月刀を持っている夏波を目の前にして、秋奈は平常心のまま話しかけてきたからだ。
「……いえ。あと少しだけ『用』があって……秋奈、あなたになんだけど。ちょっといいかしら?」
そしてそれに対して普通に返事を返した春華にも、夏波と冬子は驚愕した。
姉妹の中で最も努力し、優秀だった春華。
姉妹の中で唯一、月光色の魔力を持って産まれ、後継の魔女に選ばれた秋奈。
姉妹の中でこの二人だけは、自分達と違う。
夏波と冬子は強くそう思った。
「ごめんねぇ秋奈、こんな時間に。でも大丈夫。すぐ済ませるから」
春華がそう言って夏波に目配せすると、我に帰った夏波は新月刀の魔法を使い、身体能力を上げて秋奈に近づいた。
このまま秋奈を斬り捨てるだけ。その後子供二人を始末する。そうすれば、この「新月刀」は永遠に自分のもの。
血塗れの新月刀を持って自分に近づいてくる姉を見て、秋奈は失望したようなため息をついた。
信じたかった。
姉達と妹は、何も悪いことはしていない。全て私の取り越し苦労。
このまま子供達と眠れば、いつも通りの朝が来る。そう思いたかった。
だが、目の前の現実は違う。
返り血に塗れた春華。
血塗れの新月刀を持って近づいてくる夏波。
それを止めない冬子。
(信じたかった、なぁ……)
「……ごめんね。春姉、夏姉、ふーちゃん。どうやらあなた達の『用』に、私は応じられないみたい」
秋奈がそう言った次の瞬間、部屋の中が強い光に包まれた。
光源は秋奈と子供達が寝ている布団の中。掛け布団に覆われている秋奈の手には、満月鏡が強く握られていた。
「ま、眩しっ!」
冬子が目を抑えて後退りした。
「チッ!」
春華は苛立ち、舌打ちをした。
目障りな、目を焼くような強い光。
月詠家の家督を継ぐ魔女の証である、忌々しい月光色の魔力の光だ。
この光を、何年も何年もずっと憎んできた。
この月光色の魔力の光があるから、自分の心に生まれた陰は黒く、深く、増長して自分でも止められなくなったのだ。
「──やっぱり満月鏡はあなたが持ってたのね、秋奈!」
たかが鏡一枚で何ができる。
こちらには魔女が三人、神器が二つあるのだ。
この際、ずっと憎んでいた妹を正面から叩き潰してやる。
「いいわ!私達とあなた、魔女としてどっちが強いか試してみましょうか!?」
春華は大声をあげ、三日月ノ玉を力強く握りしめた。
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