第16話 試合結果

 ここからはポイントの集計が行われ、最終結果が発表されて勝敗が確定する。暫定のポイント推移は各自でも確認はできるが、集計と同時に運営が不正がなかったかを精査し、場合によってはポイントが無効と判断されることもある。


 控室に戻ってきた天文部メンバーは、それぞれ視線も合わせず、誰一人口を開かずにいた。

 それもそのはず、手元で計算できる範囲では、何かの間違いがなければ総合点数は第二位となる15ポイントだからだ。しかしながら、第一位想定の生徒会も16ポイントと僅差であり、無効ポイントがあれば逆転する可能性もまだ残されていた。


 とは言っても、実際には無効ポイントと判断されることはそう頻繁にあるわけではない。無効ポイントの多くは、システムのラグや不具合によるポイント付与、付与対象者のミスや、ボーナスポイントの付与忘れといったもの。

 今回はドラゴン自爆によってポイント付与対象者の判断が難しくなる局面もあったが、システムの判断通りで間違いはないというのがけいの見込みでもあった。

 だからこそ、逆転の目は限りなく低いと皆考えていたのだ。


「ひとまずは皆、お疲れ様でした。各自、反省点や課題もあると思います。結果はまだ出ていませんが、仮に勝利したとしても僅差であったことには変わりありません。運が良ければ勝っていた、運が悪ければ負けていた、そうしたランダム要素に左右されず、安定的に勝利できるようにならなければなりませんから、今回が勝利で終わろうと敗北で終わろうと、課題の残る試合になったことに変わりはありません」


 景の厳しい言葉に、皆は静かに視線を落とす。しかし案の定、アイだけはそれに食ってかかった。


「何でだよ、勝ったならそれはそれで良いだろ」


「再現性のない勝利に価値はないと言ったはずです。聞いていませんでしたか?」


「素直に目の前の勝ちを喜べねぇなら、その勝利に意味なんかあんのかよ」


 アイの言葉はもっともで、誰も何も言えなかった。景の理屈も理解できる。しかしアイの気持ちも理解できる。どちらかを捨て、どちらかを選ぶというのはあまりに酷な選択に思えた。


 しかし景だけは、アイのその意見に真っ向から反発する。


「たかが一勝に浮かれて、その結果昨年は何位でしたか? 総合六位でチャンピオンズマッチでも一回戦負け。それで満足ですか。虎野とらの、あなたはこのチームで優勝することが今季の目標だと言っていましたね。昨年の結果を踏まえて、その目標をどうやって達成しようと考えているのですか?」


 これにはアイも何も言い返せなかった。高い目標を掲げながら、今のままではそれを達成することはできないと、自分でもわかっていたからだ。

 昨年の結果も、その結果になった原因も、わかっていないわけではなかった。ただそれでも、感情を無視した景のやり方は、どうしても受け入れがたかったのだ。


「二人とも、そのくらいにしておきませんか? たしかに部長の言う通り、総合優勝には安定的な勝利が必要なのもわかりますが……。かと言って運要素が戦局を大きく変えてしまうのも事実です。今回の生徒会だって、あのタイミングであのイベントが発生しなければ、一人で大量得点とはいかなかったはずです。それは、私たちにはどうすることもできなかったことだと思いますし……」


美瑚みこ! お前ならわかってくれるだろ? 完璧を求めすぎてたら、勝っても何も嬉しくねぇ。勝って喜べねぇのに勝つ必要なんかあんのかよ!」


「目の前の一勝は通過点です。喜ぶのは最終目標が達成された時。それまではそもそもいちいち喜ぶ必要はないのですよ。気を抜くから負けるのです。珊野さんも、そうは思いませんか?」


 二人を宥めようとした美瑚は、かえって二人に迫られて、返す言葉もなくなってしまう。ここでどちらかの味方をすれば、チームが分断されてしまう。その引き金を自分の手で引くことは、美瑚にはできなかった。


 しかし誰かがどうにかしなくては、もはや景もアイも一歩も引かないと意地になってしまっていた。

 美瑚までが返り討ちに遭ってしまい、剣呑な雰囲気に居心地が悪くなった夏灯なつひは、隣にいた雪葵ゆきの袖を無意識に掴む。雪葵もそれに気付いていたが、この状況を上手く収める言葉が、彼の聡明な頭にも浮かんでこない。


「あ、あの……っ!」


 ところが思いがけず、雪葵の袖を掴んだままの夏灯が声を上げた。皆の視線が夏灯に向いて、彼女は少しの息苦しさを覚える。


「どうしたの? 花凪はななぎさん何かいい考えでも浮かんだ?」


 そんな彼女の様子を察してか、雪葵は努めて優しく声を掛け、彼女の言葉を引き出そうとする。


「あ、えっと……私はその、どちらかに決める必要はないと思います! ちょっと、考えがあると言いますか……」


 夏灯が言い淀んでいると、集計が終わり、最終結果が発表された。控室のモニターに大きく表示されたそれを見て、再びそれぞれが口を閉ざす。



最終結果


 一位 さくらぎ高校生徒会 16pt(討伐+7、収監+2、生存+3、防衛+2、道化師-1)


 二位 天文部 15pt(討伐+2、救出+1、奪取+4、生存+2、防衛+2)


 三位 スタンプラリー同好会 10pt(討伐+3、生存+1、道化師-1)


 四位 図書委員会 6pt(討伐+3、生存+2、防衛+2、道化師-1)



 結局、天文部は生徒会に及ばなかった。この試合が敗北に終わったことで、勝ちを喜ぶか否かという論争は答えを急ぐことはなくなった。


「花凪、その考えとやらはこの場ですぐに話せることですか?」


 景が夏灯に問う。そのトーンは冷たく、話せるとしても話したいかは別問題だと夏灯は感じた。隣の雪葵も同様に思ったのか、割り込む形で一つ提案をする。


「部長、この話は日を改めませんか? 今日の試合について各自で振り返ってから彼女の提案を聞き、それを聞き入れるべきか否かを判断した方が良いと思います。今後の方針に関わる部分でもあるでしょうから、時間も充分に確保して、よく議論を交わすべきだとも思います。いかがでしょうか」


 雪葵の狙いとしては、もし夏灯の考えとやらが理想的な中庸案だったとしたら、それを推し進めた方が良いと考えていた。彼女は時折、理屈だけでは決して到達できない妙案を思い付く。今回もそうかはわからないが、もしそうだったなら、今の冷静ではない景にその案を下されてはたまらないからだった。

 だからこそ、事前に根回しをしてから景に彼女の考えを伝えるべきだと思った。そのためには時間がいる。ただの時間稼ぎのつもりだが、理屈を通せば景はそれに従うということも、雪葵にはわかっていた。


「わかりました。良いでしょう。では、今日はゆっくり休んでください。そして明日を各自回顧の時間に充て、明後日にミーティングを行いましょう。それで良いですか?」


「はい。ありがとうございます」


 他の者は何も言わなかったが、異議も出なかったと判断し、雪葵は丁寧に頭を下げた。


 結果発表が行われたことで、まもなくこの控室も閉じる。クラウン・スフィアのサーバーには、試合の際にしかアクセスできず、試合の日以外で集まる時は各チームが所有するルーム――部室に集まることになる。


「では今日はこれで解散としましょう。明後日のミーティングまでに、各自意見をまとめておくように。お疲れ様でした」


 景は終始、感情を表には出さなかったものの、内心は激しく憤っていた。皆も薄々それに気付いていたためか、解散の号令が出てからは、次々と控室から退室していき、最後には景が残された。


 景は誰もいない控室で一つため息を吐いて、やがて彼も退室した。

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