第10話 Exh.1 Phase.Ⅱ パート⑥

(これは……――)


 けいは突然身体が軽くなる感覚に、すぐに美瑚みこが祈祷を発動したのだと気付いた。

 “脱兎”を選択した雪葵ゆきの狙いにも気付き、粕久かすくに援護が来るまで何とか耐え凌ぐよう指示を出す。そして、それを悟られぬように、とも。


 三つ巴の戦場では、ドラゴンの自爆によって各チームの主力が次々と討伐されてしまったことを知り、少しの混乱が渦巻いていた。景と粕久の感覚機能も戻り、今は睨み合いの緊張状態が続いている。


 だが実際には、絶対的な司令塔として真琴まことが存在している生徒会は、不測の事態に対し真琴が改めて全体に指示を出す必要があった。

 そしてリーダーが不在となったスタンプラリー同好会では、リラに代わって調しらべが指揮権を引き継ぎ、改めて全体の状態を把握し直さなければならなくなった。


 各チームとも、目の前の戦況と全体の状況の両方を、今この瞬間に把握し、判断し、指示をしなければならず、司令塔に対して多大な情報負荷がかかっていた。


 それに対し、天文部は全体方針こそ景が出すものの、二分された現場の指揮官は景と雪葵がそれぞれ担うことになっている。今この場にいる粕久以外のメンバーは、今は雪葵の指揮で動いているため、他チームに比べて景の情報負荷は圧倒的に少なかった。


 ここが好機と見て、景は再び粕久を後ろに下げて援護させ、絶対的エースのリラを失って特に混乱が大きいであろうスタンプラリー同好会を攻める。刀を構え、調に斬りかかった。景の予想通り、調はわずかに反応が遅れて直撃は免れないかと思われたが、ユイが間に割り込んで彼女を庇った。


幸鐘さちかねユイ 核損傷 2層]


「ごめん、ユイちゃん! 判断遅れた」


「大丈夫です。先輩は私が守ります……!」


 障壁で受けるつもりだったが受けきれず、ユイは左肩にダメージを負った。彼女の核の耐久値は、これで残り2層にまで削られた。粕久が銃で追撃するも、それは調が障壁を展開して防いだ。


 天文部の狙いがスタンプラリー同好会に向いたことで、スタンプラリー同好会の意識も自然と天文部へ向く。その分生徒会としては、少しだけ落ち着く時間を手に入れた。もちろん油断は禁物だが、冷静に、どちらを攻めてどちらに加勢すべきかを考える余裕が生まれたのだ。


 景の刀に対して、距離を詰めて短剣で渡り合おうとするユイ。景はそれをさせまいと、体捌きだけで攻撃をいなしながら距離を詰めさせない。しかしそれでもユイは素早い反応速度で景を追い詰めていき、ついにはその刃が彼を捉えた。


月瀬つきせ景 核損傷 2層]


 その瞬間――彼女に不意の砲撃が直撃した。


[幸鐘ユイ 核損傷 2層 討伐]

珊野さんの美瑚 +1pt(討伐)]


 援護にやってきた美瑚が、魔導杖による砲撃でユイを狙い撃ったのだ。

 周囲の索敵は調の役目だが、自分がチームをまとめなければいけないという焦りから、隠密のアビリティを使用していた美瑚をいとも簡単に見逃していた。


 本来なら、調の認識能力であれば、隠密のアビリティを使用していようとこれほど接近していた美瑚に気付かないはずはなかった。だがこの失態で余計に頭が真っ白になってしまった。


(珊野美瑚……?! いつから……? いや、今はそんなことはいい。それよりも――会長もやられて、ユイちゃんもやられて、わたしもやられるのはマズい。次のフェーズにはサフィーがいるから指揮はどうにかなる。でも戦力的にマズい。だけど、ユイちゃんがやられたなら、わたしも持たない……。離脱は……たぶん無理。なら、わたしに今できることは……)


 調はとにかく1ポイントでも取らなければと、一番ダメージを負っている美妃みきへ向けて素早く発砲した。

 なかば高みの見物を決め込んでいた生徒会からすれば、焦った調がこちらに攻撃を向けてくるとは思っておらず、美妃は障壁の展開が遅れてしまった。


木咲きさき美妃 核損傷 2層 討伐]

夜神やがみ調 +1pt(討伐)]


 調としては、美瑚がこの場に参戦してユイが討伐されたことで、孤立無援の状態の中、三人の天文部メンバーに囲まれた形になった。自分が討伐されるまで、そう長くは持たないだろうと察し、今すぐできることに集中するよう頭を切り替えたのだ。


 これで生徒会メンバーもこの場には真琴一人になった。三対一対一となり、スタンプラリー同好会だけが劣勢ではなくなったこの状況で、真琴は調と違い、防御の構えを取り確実な撤退を試みようとする。

 真琴に防御に徹されるとなると、天文部としても攻めるのは一筋縄ではいかない。ならばと、天文部の狙いは調へ向くことになる。


 それこそが真琴の狙いだった。景が調へ斬りかかるとほぼ同時に、真琴は素早く粕久に肉薄し、五指で彼の背に触れた。


[夜神調 核損傷 3層]


[冠原粕久 捕縛]

[調野真琴 +1pt(捕縛)]


 予期せぬ粕久の捕縛に驚き、景の視線が真琴に向いた。その一瞬の隙を、かろうじて首の皮一枚繋がった調も逃さなかった。景の刀の間合いで引き金を引けば、まず外すことはない。返す刀よりも弾丸の方が速い。だからこの一撃は必ず決まる。そう思っていた。


[夜神調 核損傷 3層 討伐]

[立花雪葵 +1pt(討伐)]


 しかし、“脱兎”の効果で通常よりも早く狙撃ポイントに辿り着けた雪葵からすれば、その瞬間こそが最大の狙い時でもあった。全神経を攻撃に集中させたその一瞬は、確実に狙撃が決まる一瞬でもある。


 それに続いて美瑚も、真琴に向けて追尾性能のある光の弾を放つが、障壁で受けられてしまい、それはダメージにならなかった。


「いやぁ、手に汗握る展開とはまさにこのことだねぇ。月瀬くんだけはどうしても落としておきたかったけど、こうなるとさすがに無理はできない。じゃあまた、フェーズ?で会おう」


 そう言い残して、真琴は線路を越えた先へと消えていった。


『珊野、立花、援護感謝します。フェーズ終了まで気を抜かず、各自、身を守ることに専念してください』


『はい、わかりました』


 景の指示から少しして、システムメッセージでフェーズ?の終了が告げられ、収監されたメンバー以外は控室へ転送された。



フェーズⅡ終了時点の得点推移


 暫定一位 スタンプラリー同好会 7pt(討伐+1、収監+2)


 暫定二位 天文部 4pt(討伐+4)


 暫定三位 さくらぎ高校生徒会 3pt(捕縛+1、収監+2)


 暫定四位 図書委員会 0pt

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