第8話 Exh.1 Phase.Ⅱ パート④

 エネルギー砲を撃ったのは、恐らく図書委員会の真心まごころあい。彼女の武器は魔法の杖で、調しらべとは異なる手段で遠距離への砲撃を可能にしているが、そう何発も続けて撃てる代物ではない。


 だがドラゴンの足元で起きた爆発は、恐らく琴音ことねリラが得意としている罠戦法の一種だ。

 罠はそれ自体に攻撃力が設定されており、その底上げもアビリティで可能になる。使い方によっては、普通に攻撃するよりも高い火力を生み出すことができる場合がある。


 リラの罠が仕掛けられているとなると、ドラゴンへの接近も少し躊躇われる。対ドラゴン仕様に調整された罠を万が一踏んだ場合、たったの一発でも致命傷となる可能性は高い。それはウェルも感じたようで、怯んだように一度距離を取って手を止め、チームメンバーと通信を取っているようだった。


 アイも雪葵に罠感知を頼もうかと思ったが、ドラゴンの放つ電磁波のせいで通信障害が発生しており、通信が届かない。アイはウェルの方をちらと見るが、彼も何度か通信を試みているが、上手くいっていないようだ。


 現在、ドラゴンの核耐久値は残り60層ほどで、ようやく七割近くは削ったかというところ。

 ここまでのダメージを総合すると、ウェルのダメージが最多で約20%、次いでアイが17%、そこからは少し開いてリラが約10%となっている。このままいくと、討伐時の最多ダメージはウェルになってしまい、ポイントを取られる。

 そうでなくても、リラのダメージが既に20層分もあるということは、罠の発動状況によっては簡単にその差を埋められる可能性もあるということだ。状況的に、ラストアタックを狙うくらいしかアイにポイントを得る機会はなさそうに思われた。


(――いや、それじゃあダメだ。ラストアタックだって確実に取れるとは限らねぇ。ポイントをより多く取るには――これだ)


 アイは刀に持ち替えて、通信を試みているウェルに向かって斬りかかる。不意を突かれたウェルは防御を展開している暇もなく、簡単にダメージを受けてしまった。


[ウェル・アンヴーニュ 核損傷 5層]


 これまでドラゴンから受けていたダメージもあり、ウェルはこの一撃でほとんど瀕死の状態に追い込まれた。


「てめぇ、何しやがる……っ?!」


 さらに追い打ちをかけるようにアイはすかさず片手斧に持ち替えて、ウェルに反撃の隙を与えずトドメを刺した。


[ウェル・アンヴーニュ 核損傷 2層 討伐]

虎野とらのアイ +1pt(討伐)]


「悪ぃな。これがオレにとっての最適解だ」


 ウェルの核の耐久値がゼロになり、討伐となった。

 討伐されたウェルは強制的に控室に転送され、もう試合には復帰できない。ウェルは討伐されたことでドラゴン討伐時のポイントを得る権利を失った。これで暫定的にドラゴンへのダメージ割合が最も多いのはアイとなった。

 だがこれでもまだ油断はできない。次はリラを討伐すれば、少しは安心できるだろうか。


 そう思ったが、次に目についたのは、リーチの短さ故苦戦していた星流ほしなだった。彼女はドラゴンからの反撃を受け続け、核も残り3層と何とか耐え凌いでいる状態だった。その彼女を背後から斬りつけ、アイは再び討伐ポイントを手にする。


天乃あまの星流 核損傷 3層 討伐]

[虎野アイ +1pt(討伐)]


 これで二人の“竜殺し”を討伐し、対ドラゴン戦線は点花ともかとリラが維持することになった。

 近・中距離の二人が討伐されて、ドラゴンの侵攻を銃でしか凌げなくなり、ドラゴンは少しずつ移動を開始する。行く先のアスファルトを粉砕し、行く手を阻む建物をものともせず進み、狙いは点花が狙撃拠点にしていたステージ中央に位置する総合病院だった。


 そのドラゴンの背後から、リラは少しずつダメージを与え続ける。アイは今度こそ彼女に狙いをつけた。

 しかしさらにその後ろから、アイは攻撃の気配を感じ取った。エネルギーが一点に集約されていく感覚を肌で感じ取り、その集約点に向けて突っ込んでいく。彼の予想が当たっていれば、接近することでその攻撃自体を防げる可能性があった。


 集約点を目視できる距離まで迫ると、魔導杖を構えた愛の姿があった。アイの予想通り、彼女は先ほど放ったエネルギー砲を再度撃つためのチャージ中のようだった。

 あの砲撃をもう一度撃たれると、ドラゴンへのダメージ割合はアイを上回る可能性がある。討伐とまではいかなくともあの砲撃だけは阻止しなければと思い、アイはナイフを投げて牽制し、刀を構えて一気に距離を詰める。


「よくもウェルくんを……ぶっころしてやる――!!」


 しかし愛はチャージをやめる気配はない。

 むしろ相討ち覚悟で、ドラゴンもろともアイを討伐するつもりらしい。


「マジかよ、こいつ……。クソッ――させるかよ!」


 チャージが終わる前に愛を討伐するか、それとも砲撃を避けて確実にダメージを入れるべきか、アイは一瞬だけ悩んで、しかし直感ですぐに決断した。武器のアビリティ以外に入れている、スピードを上げるアビリティで素早く撃破することを選び、無防備になっている愛を斬りつけた。


 ――はずだったが、そこに割って入るように淡く輝く半透明の盾が愛を守る。

 図書委員会の委員長・毛利もうりトリロだった。


「悪いな、少年。もう少しだけ我慢していてくれるか?」


「クソが! どけっ!」


 アイが武器を切り替えて続けざまに攻撃しても、そのすべてが盾に防がれる。


「愛、少年は無視してドラゴンを狙え。私情を挟むのは無しだ」


 愛は渋々トリロの言うことに従い、杖の先をドラゴンに向けて、集約したエネルギーを一気に解き放った。魔杖のアビリティが出せる最大火力の攻撃アビリティ・“壊滅砲”によって、ドラゴンの核は一気に削られていく。そしてドラゴンの核の耐久値が残り20層になった時、それは起きた。


 突如として目の前を強力な光が包み込んだ。ドラゴンの周囲に向けて、ドラゴンの持っていたエネルギーをそのまま無差別に放射したようなエネルギー爆発が起きたのだ。

 これはドラゴンに備わっていた特別なアビリティ・“自爆体質”によるものだった。ダメージが90%に達した時、周囲を巻き込む大爆発を起こして自滅するというもの。当然、自滅してしまったためにラストアタックの権利は誰も手にできず、ドラゴンは討伐されたわけではないので討伐ポイントを得ることもできない。


[灯波点花 核損傷 8層 討伐]

[虎野アイ 核損傷 7層 討伐]

[琴音リラ 核損傷 8層 討伐]

[真心愛 核損傷 6層]

[毛利トリロ 核損傷 8層]

[立花雪葵 核損傷 2層]


 ドラゴン戦に参加した者のほとんどが爆発に巻き込まれて討伐され、かろうじて盾を装備していたトリロと、彼に庇われた愛が大ダメージを負いながらも生き延びた。

 また、狙撃のタイミングを狙っていた雪葵にもダメージがあったが、爆心地から距離があったために軽傷で済んだ。


 こうして、この試合のドラゴン戦はまさかの展開で終結した。

 アイが討伐した者も含めて五名の討伐者を出したものの、ポイントになったのはアイによる討伐の2ポイント分だけ。ドラゴンが爆発したエリアだけ、更地のような遮蔽物のない区域となり、近かった図書委員会の陣地はそのまま姿を晒されることとなった。

 さらに、各チームの陣地には他チームメンバーの侵入を阻む結界があるが、その結界の耐久値にもダメージが入っていた。これは全体ログには表示されないが、図書委員会の陣地の結界は、50層だったものが40層まで削られてしまった。

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