少年の血液型は刀型。繋ぐべきものは血か人か。
錦 美和
第1話 少年の血液型は
朝日が昇るより少し前、時刻は午前4時。少年は鏡の前で身支度をしていた。
「今日から学校か…」
うっすらと紺色がかったシワ1つ無い詰襟の制服を身にまとい、襟に人差し指をひっかけながら少年はつぶやく。
「詰襟制服、似合わねぇ…」
身だしなみを整え、自室の障子を開け縁側に出る。
朝日が縁側の硝子戸から差し込み、夜明けを告げていた。
食堂に付くと、母が笑顔で待っている。
「おはようございます。」
「おはよう、
笑顔で返事をする母親より少し離れた場所に、侍女が背筋を伸ばして正座をしていた。
「今日も豪華な朝ごはんだね、ありがとう
「滅相もございません」
座敷机の上には様々なおかずと1人1膳の白米、
今日のメインはレバーのしぐれ煮だ。
『今日の血液型占い~!』
テレビから賑やかな音が流れる。
「そういえば虎汰、詰襟の上に羽織るマントが完成したの。朝食を食べ終えたら見せるわね」
母は指先を口元に当て、笑みを浮かべながら虎汰に話しかけた。
「ありがとうございます。」
虎汰は太ももに手を添えて軽く会釈した。
「虎汰君に絶対似合うんだから!お母さんあなたにマントを渡せるのすごく楽しみにしてたのよ~」
『そして血液型占い本日の最下位は~~~~刀型の人~!』
ーブツッー
「
母は笑顔のまま左手を左の頬に当て、右手でテレビのリモコンを持ち電源を消す。
「気にしない気にしない!」
母はカァンッと高い音を響かせながら机にリモコンを叩き置いた。
「それじゃあ母さんの部屋に行きましょう!」
朝食を食べ終えた母は虎汰の手を引き食堂を出た。
「虎汰が生まれてからもう15年も経つのね、あっという間!頑張って勉強して一人前になるのよ!」
「もちろんです。父のように偉大な功績を残せるよう善処いたします。」
2人は部屋に着き中へ入ると、母は立派な箪笥から黒々とした大きな布を一枚取り出した。
「じゃじゃーん!こちら虎汰君専用のマントでーす!かっこいいでしょう!」
母はマント全体が見えるように両腕を目一杯広げて虎汰へ見せた。
「マントの内側には鉄剤専用のポケットを何と6個もつけちゃいました!これで貧血知らずね!」
ふんふんと鼻息荒く力説する。
「そしてマントの襟には我が
母が指さすマントの襟には日本刀の絵柄を中心とし、ぐるりと日本刀を囲うように円が描かれている家紋がついている。
虎汰は上がりそうになる口角を抑えながら母へ頭を下げた。
「ありがとうございます。」
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「それじゃあ頑張ってね!!」
「はい!」
虎汰はマントを詰襟の上から羽織り、玄関で母に頭を下げる。
「15年間、本当にありがとうございました。刀刃家の名に恥じぬよう学業に励み、父のような立派な人間になって帰ってまります。」
「やーねー、今年の夏休みには家に帰ってくるんだからそんな仰々しく頭下げないでよ~一生の別れみたい!」
あっはっはと声高々に母は笑った。
「それでは行ってまいります!」
新しい学生生活に向けた一歩を踏み出すため、虎汰はガラガラと家の戸を開けた
ーザアアアアアアアアアアァァー
「縁起悪いわね!」
目の前に広がる土砂降りの景色を見つめながら、虎汰の背後からは母の笑い声が響いていた。
「いってらっしゃーい!」
母の声を背中から受け、ぺこっと軽く会釈をした虎汰は傘を開いて家を出た。
刀刃家の門をくぐり抜けて公道に出ると、アスファルトが雨に濡れて黒々しく光っていた。
少しずつ雨が弱まりながらも未だに雨が降り続ける誰もいない道をパシャパシャと音を立てながら歩いていると、虎汰はふと違和感を覚えた。
手を伸ばし、雨粒を受ける。
濡れた手を鼻に運び匂いを嗅いだ。
「これ、
「ぉ-ぃ」
「雨を降らせることができるってなると水…?それとも天気そのもの…?」
「おーーーい!!」
次の瞬間、虎汰の体に何かが勢いよくぶつかり、そのまま地面へ転がった。
「いっっでぇええ!!んにすんだてめぇ!!!!」
「こんにちは!!」
地面に尻もちをついている虎汰が見上げると、そこには少女がいた。
雨合羽は着ているが、フードは外れている。頭のてっぺんからつま先までびしょ濡れの女の子だ。
「私
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「おめぇかこの雨」
「おめぇじゃないよ!霖だよ!」
「答えろよ」
虎汰は母からもらったマントに付いた水を払い、傘を差し直す。
「うん、そう!私の朱式術!すごいでしょ!」
霖はキラキラとした目で答えた。
「なんでこんな目出度い日に雨なんか降らせるんだ。」
「おめでたい日だからだよ!
霖は胸を張り、得意げに続ける。
「慶事の日こそ雨を降らせなくっちゃ!縁起よくいこー!」
霖は両手を上に上げながらくるくると回っている。
「なんでもいいが俺に雨は縁起がいいという文化はない。即刻止ませろ。」
「むり!」
「は?」
「私の朱式術雨降らせるだけ!!」
虎汰は踵を返し、スタスタと歩き始めた。
「ちょっとちょっと!なんで行っちゃうのさ?目的地は一緒なんだから一緒に行こうよぉ~」
先を行く虎汰に追いつくように霖はパタパタと小走りで追いついてくる。
「うるせぇ」
虎汰は視線を変えることもなくまっすぐ進み続ける。
「なんでみんな雨嫌うのかなぁ」
明るかった霖の声のトーンが、少しだけ落ちた。
「雨降らなかったら、君も、全人類も、簡単に死ぬのにさ」
虎汰は一瞬、背筋がぞくっとした。
「まぁ、いっか!いつか雨のこと好きにさせちゃうかんねぇ~うりうり~」
霖は濡れた拳で、虎汰の腰をぐりぐりと押してくる。
「んで、君の名前は?」
霖は虎汰の横に並んで歩きながら話しかける。
「…虎汰。刀刃
「へぇ~。名字からして刀型の家系かな?マントについてる家紋もそれっぽいしぃ~」
霖はニヤニヤと不敵な笑みを浮かべながら虎汰をからかう。
「刀って作るとき水使うよね?じゃあ私たちもしかしてもしかして相性いい感じ?」
「馬鹿言うな、雨水を鍛冶水なんかに使わねぇよ。」
「えぇぇぇぇえ水の元は絶対雨なのに~~」
言い合っているうちに、いつの間にか雨は止み、巨大な黒い扉が視界に現れた。
「おっ!着いたね!」
霖は目を輝かせ、水たまりも気にせず扉へ駆け寄る。
「この中にやっと入れるんだー!!」
霖は扉の前でぴょんぴょんと飛び跳ねている。
「改めて見るとやっぱすっげぇ…」
虎汰は思わず息を吞んだ。
「入ろっ!入ろっ!ね!ね!虎汰君入ろっ!」
「お、おう」
「私からいい?私から入ってもいい??」
霖はその場で今にも走っていきそうな足踏みをしている。
「入るね!わーい!
虎汰の返事を待つ前に、霖は大きな扉の中央にある紋章に手をかざし、術を唱えた。
ーゴゴゴゴゴゴゴ。
重低音と共に扉が開く。
「じゃあ先に行って待ってるね!!」
霖は扉の中へ消えていき、再び大きな音を立てながら扉は閉じた。
ーゴウン。
虎汰は唾を飲み込み、ゆっくりと扉の紋章に手をかざした
「印血」
じんわりと掌が熱を持ち始め、徐々に充血していき血が滲み出始めた。
紋章は血をどんどんと吸い取っていく。
紋章全体が血を吸うのと同じ速度で徐々に白い光でおおわれていき、紋章全てが白く光りだしたとき、扉から大きな音が響く。
ーゴゴゴゴゴゴゴ。
虎汰は血が滲んでいる右手の手首を左手で抑え、少し力を入れると滲んだ血がするすると手の中に納まっていった。
「よしっ…」
虎汰はまっすぐ前を見て、開いた扉の奥を見つめながら前へ進んだ。
虎汰が扉を通り過ぎた後、再度大きな音を立てながら閉まっていく。
ーゴゴゴゴゴゴゴ。
ーゴウン。
『ーー雨宮 霖、刀刃 虎汰ーー』
『ーーデータ収集を再開しますーー』
ピピッ
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