煤けた色調と重く暗い雰囲気に支配され、醜悪な臭いが鼻を突く。本文から浮かび上がるのは、80年前の情景だ。先の大戦の爪痕は、その時代に生きるすべての人の人生に影を落としていた。武力による争いが終われど、人々にとってはなにも終わってはいないのだ。喪った人も失われたものも戻ってこない。生き残った人は、すべてを背負っていかねばならない。その重みが手の形をして佐竹にのしかかる。だが、それは彼を取り殺すためではなくて――。これは、一人の男が並々ならぬ決意をするまでのお話。