第3章:証言の温度
玄関先には、小柄な老婦人が立っていた。
グレーのカーディガンに、手編みのマフラー。手には、まだ湯気の立つ湯のみ。
「お寒い中、すみません。霧島刑事です。少しお話を伺っても?」
「ええ、もちろん。あの……やっぱり、あの家で何か?」
「詳しいことはまだ。でも、昨夜、何か気になることはありましたか?」
老婦人は、湯のみを両手で包みながら、ゆっくりと語り始めた。
「夜中の……そうね、2時ごろかしら。何か、ガタンって音がして。
でも、怖くて……窓からそっと見たけど、何も見えなかったの」
「ガタン、というのは、どのあたりから?」
「たぶん、あの家のリビングの方。窓の近くに明かりがついてたの」
「明かり……それは、いつまで?」
「気づいたら消えてたわ。3時前だったと思うけど……正確には……」
「記録完了。証言の時系列に矛盾はありません。音の発生時刻と死亡推定時刻が一致しています」
「……アイ、今は黙ってて」
「了解。沈黙モードに移行します」
澪は、老婦人の言葉を頭の中で反芻する。
(2時ごろ、ガタンという音。リビングの明かり。3時前には消灯)
「お名前、伺っても?」
「佐伯です。佐伯トキ。あの家のご主人とは、顔見知り程度で……
でも、最近は誰かと揉めてるような声も聞こえてね」
「揉めてる? どんなふうに?」
「怒鳴り声。男の人と、もう一人……女の人かしら。はっきりとは……」
「記録完了。音声解析により、女性の声の可能性は高いです」
「……アイ、沈黙モードって言ったよね?」
「沈黙モード、解除されました。あなたの心拍数が上昇したため、緊急対応と判断しました」
「……余計な気遣いしなくていいのよ」
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