第5話 冷凍食品

 俺はこの家が嫌い。


 少しだけ。

 嫌いになってきてる、って言った方が近いかな。多分。


 楽しい時もある。

 時もあるってのがポイント。楽しくない時間が必ずあって、楽しくないとかじゃなくて、もうほんとに何もない時間が多い。虚無ってやつ。


 家族みんなでリビングの机に座ってご飯を食べてる。

 けど、みんなでご飯を食べてないって感じ。今は、そんなのが普通なのかな。友達とかには、なんか恥ずかしくて聞けない。


 それぞれスマホを見てたり、タブレットを見てたり。会話がないわけじゃないんだよね。

「今日、学校でなんやかんや」

「会社であーだこーだ」

「帰りの電車が大変でさぁ」


 その時はみんな普通に話をして、またスッと自分の世界に戻ってく。その瞬間に、自分だけ戻らずに家族の世界にいると、ちょっと怖い。急に、みんないなくなるから。だから俺も、急いでイヤホンを耳にねじ込む。音が聞こえてきて、安心するから。


 あったかい手作りのご飯を食べてるはずなのに、冷凍食品を食べてるのと、あんまり味が変わらない気がする。もう最近は、味が変な感じがして、食べた後に気分も悪くなって吐いてる。こっそり夜に抜け出して、コンビニ飯。これがガチで旨い。


 ここ数年、夜になるとリビングから声が聞こえてくる。

 これが辛い。一番辛いまであるかも。


 俺が成長するにつれて、頻度が増えてきてる気がする。嫌なのが、頻度は増えてるけど、激しくはなくなってて。最近はもう、普通に会話してる感じなんだけど、リビングに近づくと、内容は「別居がー」とか、「蓄積したストレスでー」とか。


 俺がリビングに行くと、声は止む。

 それもそれで、なんか嫌なんだよね。


 この家に来てから、なんかおかしくなった気がする。

 気のせいかもしれないし、家族も色々あるよなって、思おうとしてる。


 親は、目に見えてイライラする時間が増えた。どっちも、別人なんじゃないかって思っちゃう時もある。お互いに色んな事にワクワクしてチャレンジしてたのに、なにもしなくなって、ただ家族として生活してるだけになっちゃった。って感じ。


 話してても、なんだか元気というか、覇気?がないんだよね。この前、今後のことを考えて資格を取ったって嬉しそうに言ってたけど、それにも相手は大した関心を持ってない感じで、見てて痛々しかった。家族のためにってことなんだと俺は思ったけど、もうそういうのも不快に感じちゃうのかな。なんていうか、資格取ったことを自慢してるみたいな。


 この間、夜中に目が覚めて、リビングに行ったら、一人で電子タバコを吸ってた。電気もついてなくて、いよいよ不安になったから、


「離婚とか、やめてよね」


 って、笑って言ったら、


「離婚なんかしないよ。愛してるからね」


 って。


 すごく安心したけど、電気は消えてたから、どんな顔をして言ってるのか、わかんなかった。


 電子タバコの、弱々しいライトに照らされた口元は、

 多分。

 きっと。

 微笑んでたように見えた。


 気がする。

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