第2話 運命の出会い


村を出たカイル・ヴェルグレンは、森の小道を

慎重に進んでいた。まだ旅は始まったばかりで、

足元の枯葉を踏む音さえ、恐怖心を呼び起こす。


「気をつけろ……何が出るかわからない」

ライナ・セリスが静かに呟く。銀色の髪が風に揺れる。

彼女の瞳は遠くを見据え、決して揺らぐことがなかった。


カイルは剣を握り直す。まだ自分の力に

自信はなかった。あの魔獣を倒したとはいえ、

それは偶然に過ぎない。運だけの勝利だった。


森の奥から、不意に枝が折れる音がした。

「……誰かいる?」カイルの声は少し震えた。

しかしその声は、森の闇に吸い込まれていく。


そのとき、銀色の光が視界を横切った。

光の先には、一人の少女が立っていた。

年の頃は十六か十七。背筋は真っ直ぐで、

眼光は鋭く、確かな自信を放っている。


「その剣……普通じゃないわね」

少女の声は低く、冷たくもあった。

しかし、どこか好奇心が混じっている。

カイルは驚き、思わず剣を構えた。


「誰だ……?」声は自然と強くなる。

「私?ライナ・セリス。魔法使いよ」

少女は一歩近づき、手のひらに青い光を浮かべる。

その魔力の輝きに、カイルは息を飲んだ。


「高貴な家柄だと?」カイルが訊く。

ライナは微かに肩をすくめた。「でも家族に見放され

孤独なの。だから、力を求めて旅をしている」


二人の孤独は、微妙に重なり合った。

カイルもまた、村での孤独と軽蔑を思い出す。

「……俺も、旅に出る。力をつけたい」

少年の声に、ライナは少しだけ微笑んだ。


「なら、私と一緒にどう?」

誘いはあっさりしていたが、強い意志が込められていた。

カイルは戸惑う。誰かと共に戦う……

それは初めての提案だった。


「……分かった」

少年はゆっくり頷き、決意を固める。

運命は、この瞬間に大きく動き始めた。


森を抜ける道中、ライナは魔法の基礎を教え始めた。

火球や風の刃など、簡単な魔法の動作を一つずつ。

カイルは剣を構えながら、その動きを真似する。


「力だけじゃない。頭も使うのよ」

ライナの言葉に、少年は納得する。

剣と魔法の共存――未知の世界で生き抜くには

必要な知識だった。


旅路は決して平坦ではなかった。

毒草の生えた沼地、潜む魔獣の影、足を取る罠。

カイルは恐怖に押し潰されそうになるが、

ライナの励ましで一歩ずつ進む。


夜になると焚き火の前で休息する。

「カイル……どうして戦うの?」

ライナの問いに、少年は言葉を選ぶ。


「……俺は、弱くて何もできないと思ってた。

でも、村を守りたかった」

沈黙がしばらく続く。火の揺らめきが二人の影を

大きく伸ばし、森の闇に溶けていった。


「でも、あなたは魔獣を倒した」

ライナの言葉は柔らかく、少年の胸に染みた。

「小さくても、力はある。諦めなければ、

世界は少しずつ変わるのよ」


少年は初めて、自分を信じる気持ちを知った。

孤独でも、恐怖でも、諦めなければ世界は変わる――

そう思えるようになったのだ。


翌日、森の奥で、二人はさらに大きな魔獣と遭遇する。

その姿は、前回倒した魔獣よりも巨大で、

体中に黒い鱗が光を反射していた。


「やるしかない……!」

カイルは叫び、剣を構える。

恐怖、絶望、そして闘志――すべてが少年の心に火を灯す。


ライナは魔法を準備し、冷静に戦況を読む。

「攻撃は左から。私が囮になる」

言葉通り、少女は火球を放ち、魔獣の視線を

自分に集める。


カイルはその隙を突き、剣を振るう。

鱗に弾かれながらも、一瞬の隙を見逃さない。

一撃が深く刺さり、魔獣は呻き、後退した。


戦いの後、二人は息を切らしながらも

笑みを交わす。初めて共に戦った、戦友としての喜びだ。


「あなたとなら、やっていけそうだ」

カイルは言葉を震わせながらも、心から

そう思った。


「私もよ、カイル」

ライナの瞳は真剣だが、どこか優しい光を

宿していた。


こうして二人の旅は本格的に始まった。

森を越え、未知の世界へと向かう。

運命の歯車はすでに回り始めていたのだ。

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