稼働11年目のVRMMOにて、超絶ナーフを受けまして
@2ki4_ma4
閑話 とある重戦士系のソロ攻略にて
10周年キャンペーンを終えたフルダイブ型VRMMO。11年目がスタートすると同時に、一つの独立型エキスパンションがリリースされた。
本編とはまったく異なるストーリー型で、AIまかせに何でも成長する異世界型。装備やアビリティを一つだけ本編から持ち込めるという特典は、最大レベルになった際に横一線性能になってしまう本編キャラに、オリジナリティを与えるためのセールストークだった。
そんな謳い文句を見ても、俺は本編に残った。
だって、10年も遊んだんだ。
愛着というか、生活の一部だった本編からそう簡単に移住できるわけがない。
………
……
…
と、4時間前の俺は考えていました!
+-+-+-+
いつもなら広範囲の初期技で殲滅できた雑魚敵ですら、HPゲージがミリ残りする。これまでは移動補助として使っていた攻撃スキルでトドメを刺し、ようやくボス部屋から逃げ出した。
《最新コンテンツの月光迷宮を攻略することで、新武器の魔導銃が解禁される》
いつものメンバーも、面識のあるクランメンバーも、すでに独立型エキスパンションへ移住済み。
もはやソロチャレンジするしかない。
「くそ、重戦士系への弱体化……正直舐めてたわ」
前回の定期メンテナンスで弱体化のお知らせがあったのは知っていた。小刻みに装備変更と調整を入れつつ長年愛用していた構成が、まさか雑魚Mobすら殺しきれないほどにナーフされるとは……。
目の前の壁に寄りかかって、インベントリから携帯食料と水を取り出して口に放り込む。異世界型の隠れパラメーターの一つである“空腹と乾き”まで、本当に鬱陶しく思い始めてしまった。
「どうすかなぁ。クリアするまで迷宮から出られないとか、こんなキチガイ制限もやめて欲しい」
地べたに座り込み、外部ブラウザを立ち上げる。もう一度有志wikiや攻略動画を開いたところで、新情報が書き加えられたり、イージー攻略動画がUPされるわけはなかった。
時間経過でボス部屋の照明はどんどん暗くなり、部屋の8箇所の石灯籠に対応した属性攻撃を当てないと再点火できない。
そうすると、どうなるかって?
ボスに無敵シールドが付いて、適正Mobが無限湧きするんだ。
めんどいギミック+物量はダメだろ!
容赦ないというか、投げやりなゲーム運営するから、プレイヤーが独立型エキスパンションに流れるんじゃないのか?
………
……
…
よし、愚痴はやめよう。
+-+-+-+
アニマの羅針盤を取り出してスキルをリセット。
ナーフされた大剣・大斧・戦鎚を使わない、重戦士系にとっては邪道構成へと組み替えた。低下したステータスは、カルマ値が上がったり、NPC管理の街へ一定期間入れなくなるデメリットがかなりキツい魔薬で補うべく、回復ポーションと入れ替えていく。
回復手段……正しい思考は捨てる!
あとは、ボスのHPを削るための奥義だ。どうにか最遅になってしまった発動速度を踏み倒せないものか……。
ふと、有志wikiの月の楔の影響を受けたボスのデバフ検証の項目に目が止まる。動けば動くほど盾バフと奥義発動回数加算バフが吸われる?
……どっかの攻略動画で、棒立ち&沈黙と盲目のデバフを付けて奥義発動時間をギリギリ二桁秒にした人いなかったっけ?
見つけた動画を再生し、迷宮の中だけど思わず天を仰いだ。
「古き良きファンタジー漫画で、魔槍の人がやっていた闘気ゼロ戦法かよ」
要は、肉を斬らせて骨を断つ……最後にHPが1でも残って立っていられれば勝ちっていう、捨て身カウンターだ。
主人公属性の無い俺には、失敗した際の保険として仲間が一人欲しいところ。
「あー、もう、仕方ない……か」
俺は渋々、自分が所属するクランへ救援メッセージを飛ばす決意をした。今所属しているクランは、すでに主力メンバーの大半が大型エキスパンションへ移籍してしまっていて、空中分解状態だ。残っているのは俺みたいな物好きか、クラン報酬狙いのソロ攻略至上主義者ぐらい。
すんません、月光迷宮の……
とクランチャットへ思考入力をし始めたとき、突然として救援・共闘要請が視界にポップアップされた。サブ画面に表示された情報には、共闘要請をしてきたパーティー編成はアークビショップ/賢者の1人だけとなっている。
「……っはぁ? ヒーラーのソロ!?」
思わず声が出てしまったが、急いで考えを巡らせた。
絶対におかしい。
PvPは両者の合意が必要だからPKの心配はないが、後から別の人が合流する感じなのだろうか? それとも、パーティーが壊滅して取り残されたか? 誰かしら残っているなら、その人をリスポーンポイントにする再合流アイテムがあるはずだ。
………
……
…
まあ、とりあえずは会ってみるか。
俺はポップアップに表示されている承諾ボタンをタップし、クランチャットの思考入力を消した。
+-+-+-+
それ程時間がかかることもなく、目の前に金髪碧眼の少女が出現した。俺より頭一つ分背が低く、白を基調としたライトブルーのアクセントが入った神官服に身を纏っている。その上から部分的に金属鎧を装備し、頭にはシルバーのティアラ。両手で聖印が付いた盾を持っていた。
俺が失礼なまでにジロジロ見ていることに気づいたのか、少女は少し照れた様子で口を開いたが、すぐに押し黙ってしまう。
「あ、いや……これは失礼。救援には応じたが、俺も一人なんだ。構成はアサルトアーマー/盗賊で、レベルはカンストしてる」
「あれだけ弱体化された重戦士系を使ってここまで攻略されるとは……よっぽどの猛者の方なのですね。私はラウラと申しまして、ご確認いただいている通りアークビショップ/賢者のヒーラーです」
彼女は憔悴しているが、無理やり作ってくれた笑顔を向けてきた。
「えーっと、聖女ちゃん様って呼べばいいかな?」
「……ふぇ?」
何だか猫が宇宙の背景を背負ったような顔をした後、ラウラさんは唐突に慌てふためき始める。
何だろう、この小動物感は……ちょっと可愛いかもしれん。
「ちちちちちちちちがいますっ! そんな恐れ多いっ! わ、私……そんな大層なものではなくてっ!! た、ただのしがない神官でぅ!!! ……あぅ」
最後噛んだよ……この子。
「あ、うん……ごめんて。しかし、何故にヒーラー・ソロで迷宮へ?」
「クランパーティーで迷宮攻略に来たのは良いのですが……お恥ずかしながらクランで保有していた再合流アイテムが底を付いてしまいまして……。途中撤退はクランにペナルティがついてしまいますから……その……」
……なんともゲームらしい理由で、彼女はソロチャレンジに挑んだわけか。
ラウラは最後の言葉が尻すぼみになってしまい、そのまま俯いてしまった。要は、こんな暗闇に覆われた新迷宮のボス部屋で一人だけで死にたくないってことね。
「あれ、待って。それって……これ、新手の逆ナンでは?」
「……なん……ナン……ぁ……ぎ、ぎゃっ!!?? ……えとあのそのこれはそういうことではなくてもちろんげーむですからしぬのはまったくきょうふをかんじたりそんなことはぜんぜんないわけでして」
何故か、彼女は顔を真っ赤にしながら飛び上がった。そのまま挙動不審にオロオロし始める。
ラウラさん、完璧バグってしまわれた。
「……いや、冗談だって」
俺は言おうかどうしようか少し迷ったけど、そのまま言葉を続ける。彼女からしたら迷惑かもしれないけど、何となく言葉にしておくべきだと予感めいたものがあった。
「この暗闇に飲み込まれた迷宮の中で一人で死ぬかもしれない恐怖を紛らわすためってだけでも、救援を出してくれてよかったよ。あっ! ちなみに俺は、負け終わりにするつもりないからね?」
俺の言葉で、彼女の猫背気味だった背筋が伸びきった。その変化が何を意味するのか分からなかったけど、とても良い傾向だと思う。
□■□■□■□■□■□
正直に言おう、フルダイブ式とはいえ膝枕最高。
………
……
…
はい、すいません。
ボス部屋のギミックは、普段ならプレイヤーにかける属性結界を石灯籠に使うというウルトラCでラウラさんが完封した。
ボスへのダメージは、両手武器だけどカテゴリー的には魔導杖という魔法(物理)をやりたい人向け装備を使った俺の火力に頼る。向こう一年はNPCが管理する街に入れないほどの魔薬を飲んで、弱体化された性能を無理やり引き上げた。
相手に与えた属性ダメージで自傷ダメージを受けるたびに武器ダメージが上昇する《スペクトラル・アタック》の条件を満たすため、火、水、風、土、氷、雷、無の七属性を浴びる。あとは、盲目と沈黙のデバフを浴びてギリギリ二桁秒棒立ち後、奥義ブッパという捨て身カウンターでボスと相打ちになった。
HP1で意識が戻ったあとは、ラウラさんに膝枕されている状態である。
「あー。メインジョブをバーサーカーにして、自傷トリガーで真・狂乱を発動させればもっと早くリザルト画面を見せてあげられた気がする」
「ややややややややややめてくださいっ! あのウルトは神様を降臨させて使う魔法じゃないと正気に戻せないんですから……。蘇生だって最後の1回だったんですからぁっ!! バカですかっ? 大バカですかっ? 超大バカですかっ? 極大バカですよねぇっ!?」
ラウラさんはあの時とは違った口調の早口で捲し立てながら、俺の頬をムニムニと引っ張っていた。
「最後の最後で……また一人ぼっちになる……と思ったら……いてもたってもその……そろそろ起きてくださいっ!」
「いやいや、そしたらクリア後の転移ポータル出るから帰れるでしょ?」
俺は顔を真っ赤に染めながら頬をつねっている彼女の手を掴み、少しだけ名残惜しさを感じながら彼女の膝から頭を上げる。
お互いの顔がすごく近かったので慌てて手を放して飛び起きたが、どうも遅かったようだ。彼女は顔を真っ赤にしながら俯いてしまったから、俺も何だか恥ずかしくなってくる。
くそ、最後にちょっとぐらい悪戯しても罰は当たらないと思うんですよ。
「ラウラさんは、その……俺なんかに膝枕して良かったの?」
「……っえ!? あ! あの……それは……そのあの……」
彼女は照れ顔を一瞬引っ込めて、俺の言葉の意味を理解したのか戻りかけていた頬の赤みが復活してしまった。それからもブツブツと言い訳じみたものを言っていたが、俺は聞き流すことにする。
「おっし、お疲れ様でした。このまま、パーティーは解散で大丈夫? ラウ……聖女ちゃん様?」
「ちーがーいーまーすっ! ……えっと……その……ありがとうございました」
俺は、真っ赤な頬のまま膨れっ面になっている彼女の頭を撫でて立ち上がった。
うん、これは可愛いわ。
よし、魔導銃の解放クエストを頑張るかな。
「んじゃ、パーティ解散ということで」
俺がそう口にすると、何度もお辞儀をする彼女のアバターは光に包まれて消えていった。
稼働11年目のVRMMOにて、超絶ナーフを受けまして @2ki4_ma4
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