太陽のお葬式

加藤 航

太陽のお葬式

 今日も妹が葬式の準備を始めている。

 雨がばちばち当たってくる窓際に折り畳み机を置いて、そこに卓上鏡を乗せる。

 鏡には画用紙が貼り付けてある。画用紙の端はクレヨンで黒く縁取られていて、真ん中にはオレンジのクレヨンでグルグル渦巻きが描いてある。どうやらこれが太陽の遺影らしい。

 最後に、ままごとで使うピンク色の小さなお椀を添えて、準備は整ったようだ。

 机の前にちょこんと正座した妹は、小さな手で合掌をすると「ナンム、ナンム」と真似事のお経を唱え始めた。


 妹がこんなことを始めたのは三カ月も前だ。

 お母さんは縁起でもないからやめなさいと言ったが、そんなに強い調子でも叱らなかった。お父さんはそのうち飽きるだろう、と言っていた。でも、飽きなかった。

 ぼくが何でこんなことを始めたのか聞いてみたら、妹は、幼稚園で外で遊ぶのが嫌だからと言った。

 妹が最初に太陽の葬式をやった翌日、まるで妹のごっこ遊びに付き合うかのように雨が降った。

 こりゃあ、新手の雨乞いだな。なんてお父さんは笑っていた。

 でも三日、四日、一週間。ずっと雨が続くとだんだん不気味になってきた。それに、今は梅雨じゃない。

 さすがにお父さんとお母さんはちょっとだけ強めに叱ったけど、それでも妹はやめなかった。

 机やお椀を隠してみても、結局は画用紙だけ使ってやるものだから、もう止めようがなかった。

 

 そのまま、もう三カ月になる。

 きっと太陽はすっかり怒ってしまって、もう本当に出てきてくれないのかもしれない。

 妹は今日も窓に向かって合掌している。ナンムナンム。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

太陽のお葬式 加藤 航 @kato_ko01

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画