第55話 来訪者
――速報です。
突如発生した大規模爆発により、
市街地の一部が壊滅状態となっています。
原因は現在不明。
複数の建物が倒壊し、
負傷者・行方不明者は把握できていません――
瓦礫の隙間から聞こえる、微かな電子音。
砕けたテレビが、無機質な声で現実を告げていた。
煙の向こうでは、大量の救急車と消防車のサイレンが鳴り始めている。
自分が育った町が壊されているという事実が、翔馬の胸を強く締め付けた。
「……くそ……」
だが、立ち止まる暇はない。
無闘とFは、まだ立っていた。
蒼鎧は限界まで軋み、
呼吸は乱れ、視界も揺れている。
それでも――
「ハァ……ハァ……まだだ……」
無闘が、低く呟く。
Fは無言で一歩踏み出し、
蒼の気を再び一点へ集束させる。
蒼気が振り向いた。
「……まだ来るか」
次の瞬間。
無闘が真正面から踏み込み、
蒼の衝撃を叩きつける。
Fがその影に入り、
時間差の一撃を蒼気の死角へ流し込む。
――当たった。
確かな手応え。
蒼気の身体が、わずかに揺らぐ。
「……っ」
無闘の拳が、蒼気の脇腹を抉った。
蒼気が、後退する。
また一撃、通した。
無闘の喉が、思わず鳴る。
「いける……!」
だが。
蒼気の表情は、崩れなかった。
むしろ――
ほんの僅か、興味深そうに歪む。
「もう限界だな。」
蒼気は、空気に手をかけるような仕草をした。
その瞬間。
空間そのものが、震えた。
蒼の気が、再び暴走する。
先ほどよりも、さらに密度の高い圧。
無闘とFが、同時に悟る。
(……まずい……!!)
逃げ場はない。
蒼気の大技が、
半壊した町全体を飲み込むように展開された。
再び轟音。
無闘とFは、反射的に蒼鎧を最大まで展開する。
だが――
蒼が、足りない。
「……っ!?」
無闘の蒼鎧が、途中で薄くなる。
Fも同時だった。
蒼の供給が、途切れる。
心臓が、重く脈打つ。
視界が、暗転する。
――切れた。
蒼の気が、完全に尽きた。
同時に。
MODEが、
final formが――
強制解除。
「……ぐ……」
無闘の身体から、蒼が消える。
Fの蒼鎧も、霧のように散った。
次の瞬間。
蒼の奔流が、二人を真正面から叩き潰した。
音もなく、
ただ圧だけが、身体を砕く。
無闘の身体が宙を舞い、
瓦礫の向こうへ叩きつけられる。
Fも同様だった。
地面を何度も跳ね、
最後は、動かなくなる。
――沈黙。
立っているのは、蒼気だけ。
蒼の気をまといながら、
彼はゆっくりと視線を巡らせた。
「決着だな。」
翔馬の拳が、震える。
仲間は倒れ、
町は壊れ、
一般人は瓦礫の中で埋もれていた。
瓦礫の山に、静寂が落ちていた。
無闘は動かない。
Fも、与志野も、花野も――倒れ伏したまま。
蒼の気は枯れ、
町は焼け、
空気だけが重く沈んでいる。
それでも。
翔馬は、前に出た。
「ダメだ翔馬!悔しいけど……!もう……!」
田野が止めようとするが翔馬は振り返らない。
脚は震え、
肺は焼け、
蒼の気はまだ十分に巡っていない。
それでも、構える。
「……まだ……終わってない……」
蒼気が、淡々と告げる。
「そうだったな……お前は抹殺しておかなければいけないんだった……」
翔馬は睨み返す。
「してみろよ……蒼気。」
蒼気の腕に蒼の気が集中する。
「では、そうさせてもらう。」
その瞬間だった。
――カツン。
瓦礫を踏む、乾いた足音。
翔馬と蒼気、同時に視線を向ける。
荒廃した町の影。
崩れたビルの残骸の上に――
一人の男が、立っていた。
黒蒼の気を纏い、
歪んだ笑みを浮かべて。
「……やれやれ」
低く、苛立ちを含んだ溜め息。
「……見てられないな。」
翔馬の目が、見開かれる。
「……無……い……野……?」
無い野は、翔馬を一瞥しただけで、興味を失ったように視線を逸らす。
そして――蒼気を見た。
その瞬間。
空気が、凍りつく。
「……蒼気」
声は低く、
だが確かな殺意がこもっている。
「……随分と派手にやってくれたな」
蒼気は、ほんの一瞬だけ目を細めた。
「……生きていたか」
無い野は、歯を剥くように笑う。
「クク……亜里野如きの攻撃で俺が死ぬ訳が無いだろう。」
一歩、前へ。
蒼黒が、再び濃くなる。
「俺より翔馬の方が魅力的に見えたか?天下の3剣神も随分と見る目が腐ったな。」
「見る目が腐った?おかしな事を言うな……ならばあの勝負……お前が勝ったとでも言うつもりか?」
無い野の視線が翔馬へ向く。
「……フン。」
そして口を開いた。
苛立ちを隠そうともしない。
「それと……お前だ、翔馬」
翔馬は、言葉を失う。
「過程はどうあれ俺に勝った奴が……蒼気如きに押されるのは我慢ならない。」
蒼気が、静かに構える。
「敗北者が……今更ノコノコ出てきてももう遅い……お前達には抹殺命令が出ている……もう逃げることは出来んぞ。」
「黙れ。」
無い野の蒼が、爆ぜた。
「俺が……俺こそが……!神界の王だ!!」
次の瞬間。
無い野が、消えた。
――ドンッ!!
蒼気のいた空間が、爆発する。
衝撃波が、瓦礫を吹き飛ばす。
蒼気は、紙一重で距離を取る。
(あの時より更に……!格段に強い!)
「そんなものか蒼気!」
無い野の拳が、連続で迫る。
「……!調子に乗るな。」
蒼黒と蒼が、正面から激突する。
轟音。
空気が、悲鳴を上げる。
――互角。
完全に、互角だった。
蒼気の蒼の気の制御。
無い野の、歪で暴力的な出力。
ぶつかるたび、地面が削れる。
翔馬は、その光景を見て、息を呑む。
(凄い……!この短期間でどんな修行をしたらこんなに……!?)
無い野は、殴りながら吐き捨てる。
「どうだ……!?お前が見捨てた敗北者の拳は!?」
蒼気は、冷たく返す。
「うるさい。」
蒼黒が、さらに膨張する。
無い野の蹴りが、蒼気の防御を軋ませた。
蒼気が、初めて一歩下がる。
「……っ」
無い野は、笑った。
「……いい顔だ蒼気」
そして、背後をちらりと見る。
倒れた仲間達。
立ち尽くす翔馬。
「勘違いするなよ、亜里野翔馬」
無い野は、蒼気から視線を逸らさずに言った。
「お前を助けに来たわけじゃない」
蒼黒が、吠える。
「蒼気を殺すにはお前らと戦って消耗している今が最適だと思っただけだ。」
蒼気は、ゆっくりと口角を上げた。
「消耗だと……?笑わせるな、あんな奴らに消耗なんてする訳がない!」
二人の蒼が、再び衝突する。
だが今度は。
憎悪と因縁が、剣となる。
蒼と蒼黒が、正面から噛み合った。
衝突の瞬間、
空間そのものが歪み、
爆音が遅れて追いつく。
――ドォンッ!!
地面が沈み、瓦礫が宙を舞う。
蒼気は両腕で受け止めながら、低く呟いた。
「……力任せか」
「どうかな!?」
無い野の拳が、さらに踏み込む。
蒼黒の気が、血管のように全身を走り、筋肉が異様に膨張する。
次の瞬間――
無い野の拳が分裂した。
残像ではない。
実体を持った、複数の打撃。
蒼気は即座に後退し、蒼の気で壁を展開する。
だが――
ズバァッ!!
壁が裂ける。
「……なに?」
無い野は、嗤った。
「人格分裂の副産物だ。
こいつらに意思はないがな。」
背後から、横から、上から。
無い野“達”の攻撃が、同時に蒼気を襲う。
蒼気は空中で体勢を変え、蒼の気を線状に圧縮。
「――散れ」
蒼の光が、放射状に走る。
空間が切断され、
分裂した無い野の半数が霧散する。
「チッ……」
無い野は舌打ちし、距離を詰める。
蒼気の懐へ。
だが――
蒼気の眼が、冷たく光った。
「……見えた」
無い野の腹部に、衝撃が“遅れて”炸裂する。
「――がっ!!?」
拳は振るっていない。
蒼の気を時間差で流し込む、極限の制御。
無い野の身体が、宙でくの字に折れる。
しかし――落ちない。
蒼黒が、強引に形を保つ。
「効いたぞ……!」
無い野は、血を吐きながら笑う。
「だがな……
壊れかけの方が、よく動く」
無い野の蒼黒が、さらに異常な輝きを放つ。
人格の“境界”が、溶け始める。
翔馬は、息を呑んだ。
(……これは……)
無い野の背後に、
歪んだ“影”が重なる。
複数の意思が、ひとつの身体を奪い合いながら――
同時に最適解を選ぶ。
「……自壊覚悟か」
蒼気が、初めて明確に警戒を示した。
次の瞬間、蒼気の背後。
音が追いつかない速度。
無い野の肘が、蒼気の肩を砕く。
蒼気が後退する。
空中で体勢を立て直しながら、蒼の気で即座に修復。
(肉体の修復……!俺の終点と同じく肉体を蒼の気と同化させているのか……?)
「そうでなくてはな……蒼気!」
無い野は、笑いながら突っ込む。
拳、蹴り、肘、頭突き。
すべてが殺意の最短距離。
蒼気は防御しながらも、確実に押され始める。
(……出力で並ばれた……?)
蒼気は、深く息を吸う。
そして――
蒼の気が、“静かに”沈黙した。
次の瞬間。
――世界が、無音になる。
「……?」
無い野の動きが、
一瞬だけ“遅れる”。
蒼気は、その隙を逃さなかった。
「死ね、無い野。」
蒼気の掌が、無い野の胸に触れる。
触れただけ。
だが――
蒼の気が、内側から爆発する。
「ガハッ!!」
無い野の身体が、後方へ弾き飛ばされる。
地面に叩きつけられ、
クレーターが生まれる。
無い野は、動かない。
蒼気は、静かに降り立つ。
「……これが、制御された力だ」
だが。
瓦礫の中から――
「……はっ」
掠れた笑い声。
蒼気の眉が、わずかに動く。
無い野が、ゆっくりと立ち上がる。
胸部は裂け、
蒼黒が漏れ出している。
だが――眼だけは、狂気の光を失っていない。
「……そんなものか……ガッカリだな……」
無い野は、胸を押さえながら言った。
「なぁ、蒼気」
一歩、前へ。
「これからが本番だ……」
蒼黒が、一点に収束する。
人格分裂が、
初めて“ひとつ”に統合されていく。
翔馬の心臓が、跳ねた。
(……来る……)
「――MODE終点。」
無い野が、顔を上げる。
「マヂキチ野。」
蒼気が、構え直す。
空気が、悲鳴を上げる。
次の一撃で――
どちらかが、決定的に崩れる。
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