第53話 肯定者と決闘

「――MODE反転」


 Fの踏み込みと同時に、地面が砕けた。


 蒼気が反応するより先に、拳が迫る。


「っ!」


 蒼気は咄嗟に腕で受ける。


 ――衝撃。


 空気が爆ぜ、二人の間に衝撃波が走る。


 蒼気が後退した。


 わずかに。

 だが、確実に。


「ほう……」


 蒼気の口元が歪む。


(MODE反転……無闘と同じか)


 Fは間合いを詰める。

 止まらない。


 拳、肘、膝。

 すべてが最短で、最速。


 蒼気も応じる。


 蒼の気を纏った掌が拳を弾き、回し蹴りがFの肩を掠める。


 ただひたすらに速い。


 蒼気は一気に距離を取り、蒼の気を圧縮する。


 Fも止まらない。


 二人が同時に踏み込む。


 拳と拳が激突し、空間が歪む。


 爆風が周囲の瓦礫を吹き飛ばした。


 翔馬は、その光景を見つめていた。


(……互角……)


 今まで誰一人として、蒼気と正面から打ち合えた者はいない。


 だが――


 Fは、食らいついている。


 蒼気は確信する。


(こいつ……既に自身のMODEを完成させている……!動きに一切の隙がない!)


「やるじゃ無いか」


 蒼気が笑う。


「貴方もね。」


Fも笑みを見せる。


 二人の蒼の気が、さらに膨れ上がる。


そして2つの波動は反発し合い衝撃波を放つ。


 再び――


 一対一。


 空が、再び鳴り始めた。


翔馬は歯を食いしばり、踏み出そうとした。


(2人の実力は互角……!俺が加勢すれば……!)


 だが。


 ガクン


 視界が揺れ、膝が折れる。


「――っ!?」


 体内を巡っていた蒼の気が、急激に霧散した。


「MODEの……解除……?」


 反動が、一気に押し寄せる。


 筋肉が悲鳴を上げ、肺がうまく空気を取り込めない。

 立っていることすら困難だった。


(しまった……!無理をし過ぎた……!身体が……!)


「……無理をしたな、翔馬」


 背後から、穏やかな声。


翔馬は動かないボロボロの身体を何とか気合いで動かし振り返る。


「田野……!」


 いつの間にか、田野が傍に立っていた。


 田野はすぐに手を翳す。


 蒼の気とは異なる、柔らかな気配が翔馬を包んだ。


 折れかけていた身体の感覚が、少しずつ戻る。


「完全回復じゃないよ。治るのは身体だけで蒼の気は回復しないからね……。

 でも……動けるくらいにはなる。」


「……悪い」


「謝るのは後」


 田野は視線を戦場へ向けた。


 蒼気はFが放つ攻撃を回避し続けながらカウンターの隙を伺っていた。


「――確かに隙はない……なら作り出すだけだ!」


蒼気がFの攻撃をいなし、地面を破壊する。


「ッッ!!」


Fがバランスを崩す。


素早く蒼気がFの懐に入り込む。


真正面。


両者の拳に蒼の気が凝縮される。


 蒼気が一歩踏み出した瞬間、


 ガンッ!


 蒼の気同士がぶつかり合う音が響いた。


否。

それだけではない。


蒼気の背後から何者かが打撃を与えていた。


「……ッ!?」


 蒼気の視線が、一瞬だけ揺れる。


 そこに立っていたのは――


「遅れたな」


 無闘だった。


 汚れた服。

 だが、さっきまでの傷は塞がっている。

 

「無闘……!まだ殴られ足りないようだな。」


 蒼気が目を細める。


 無闘は拳を鳴らす。


「さすがに全快じゃねえ。でも……十分だ」


 蒼気の視線が、遠くへ流れる。


 瓦礫の影。

 そこに、膝をついたまま手を地につけている影があった。


「……田野か」


 小さく、だが確信を持った声。


「私とした事がミスをしたな、まず回復役から倒すべきだったか。」


 蒼気は再び、二人に向き直る。


「だが――奴の回復は肉体のみ、見たところ蒼の気の消耗は回復できない。

 この調子じゃお前達が蒼の気を消耗しきるのは時間の問題だ。」


 Fが前に出る。


「そうだね……だから……消耗し切る前に倒す!」


 無闘が横に並ぶ。


「F、俺が崩す。

 崩したら2人で一気に畳み掛けるぞ。」


 蒼気が笑った。


「くどいようだが……お前らでは私には勝てん!!」


 次の瞬間、三人が同時に動く。


 Fが正面から踏み込む。

 蒼の気を血流に完全同化させた一撃。


 蒼気は受け流す――が、


 ドンッ!


 横から無闘の蹴りが叩き込まれた。


 蒼気が後退する。

 即座に蒼の気を放出し、衝撃を相殺。


 だが、その隙にFが懐へ入る。


 拳、肘、膝。

 無駄のない連打。


 蒼気は防ぎながら、内心で舌打ちする。


(なるほど……流石奴の弟子なだけはある……連携されると厄介だ)


 蒼気が蒼の気を爆発させ、二人を吹き飛ばそうとする。


 だが――


「させるか!」


 無闘が地面を踏み砕き、蒼の気を一点に集中。


 蒼気の爆発を、真正面から押し返す。


「……!」


 蒼気の表情が、わずかに変わる。


 その瞬間を、Fは逃さない。


 背後へ回り込み、蒼の気を纏った拳を叩き込む。


 ドォン!!


 蒼気の身体が、空中で回転しながら吹き飛んだ。


 着地。

 地面に亀裂が走る。


「……驚いたな……想像以上だ。」


 蒼気は肩を鳴らす。


 その目は、まだ余裕を失っていない。


 蒼の気が、さらに濃くなる。


 Fと無闘は、構えを解かない。


 二対一。

 気を抜けば即死。


 蒼気の周囲を、二つの影が囲む。


 Fと無闘。


 蒼気が前に出る。


 蒼の気が、爆発的に膨れ上がる。


「――沈め」


 放たれた蒼の波動。


 だが、


「甘ぇ!」


 無闘が正面から突っ込み、蒼の気を一点に集中。


 波動を真正面から割った。


 その瞬間、Fが横から入り込む。


 蒼気の死角。


 蒼気は即座に反応し、腕で受ける。


 だが、衝撃が違う。


「………!」


 蒼気の足が、わずかに地面を削った。


 蒼気は悟る。


(連携の完成度が上がっている……この土壇場での集中によるものか……だがただでさえ消耗が激しいMODE反転……!もって後数分……)


 無闘が崩し、

 Fが決めに行く。


 蒼気は距離を取ろうとする。


 だが――


「逃がすか!」


 無闘が踏み込み、蒼の気を地面に叩き込む。


 衝撃が地を走り、蒼気の動きを止める。


 そこへF。


 真正面からの拳。


 蒼気は防御するが、今度は吹き飛ばされなかった。


(……!硬い!さっきより数段!)


 蒼鎧を何重にも張り、その場で踏ん張る。


「……ッッ!フフッ……!」


 口元が、僅かに吊り上がる。


 蒼の気が、さらに研ぎ澄まされる。


 だが――

 押し切れない。


 二人の圧が、確実に蒼気を縛っていた。


 翔馬は、その光景を見つめていた。


(F……無闘……)


 田野の回復が終わろうとしていた。


 拳に、感覚が戻る。


「早く加勢しないと……!」


翔馬は焦るが田野がそれをなだめる。


「翔馬……今はまだ無理だ。

 身体は回復してもMODEで蒼の気を大量に消耗している……すぐには使えない。」


無闘とFのコンビネーションに蒼気は徐々に押され始めていた。


 蒼気は小さく息を吐く。


「……面白い」


 蒼気の周囲で渦巻いていた蒼の気が、音を立てて静止する。


 暴風のようだった流れが、凪いだ。


「ラウンド2って訳か……!」


 無闘が低く呟く。


 Fも察していた。

 肌を刺すような圧が、さきほどとは明らかに違う。


 蒼気は、ゆっくりと一歩踏み出した。

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