第11話 一騎打ち

瓦礫だらけの校舎跡に、砂埃が舞っていた。

遠くで鳴るサイレンの音は、まだここまで届かない。


YOU diedは、瓦礫に片手をつきながらゆっくり立ち上がる。

頬には翔馬の蹴り跡。

だが彼はそれを手で拭い、ニヤッと笑った。


「……ハハッ……いいじゃん、亜里野。

 ちゃんと痛ぇわ、今の。」


余裕、傲慢、挑発。

それらは完璧に保たれている。


だが。

彼の“瞳の奥”だけが、静かに燃えていた。


いや——揺れていた。


——優大、やめろ!


頭の奥で響くその声に、YOU diedは内側だけで歯を噛み締めた。


翔馬が距離を詰める。


YOU diedは足を一歩前に出し、銃を肩に担ぐように構える。


浅い笑みを浮かべて。


「“いい蹴りだった”なんて褒めてほしいのか?

 けど……残念。俺は褒めるの嫌いなんだよ。」


翔馬は冷静に言った。


「強がんなよ。

 お前……さっきから、ほんの少し狙いがズレてる。」


YOU diedの笑みが微かに止まる。


しかし次の瞬間にはもう、挑発の表情に戻っていた。


「狙いが?ズレてる?

 アハハ……お前マジで頭悪いな。」


銃口が翔馬の眉間へ向く。


「俺が外したんじゃねぇよ。

 “避けられたと錯覚させてやった”んだよ。」


挑発的な声。

だが照準はほんの僅かに震えている。


震えをごまかすように、YOU diedは銃を回転させて構え直した。


翔馬は一歩前に出る。


YOU diedの足が止まった。


だが、顔は完全に笑っている。


バンッ!!


YOU diedは即座に引き金を引く。

完璧な反応。迷いなど……“ないように見える”。


弾丸は翔馬の頬をかすめ、背後の瓦礫に突き刺さった。


翔馬は拳を握りしめる。


「行くぞ.....YOU died!」


「フン、一発当てただけで随分と太い態度だな。」


YOU diedは銃を構えながら、ゆっくり言葉を続ける。


「お前とは違って俺にはまだ余裕があんだよ」


——また....皆んなで....


フラッシュバックに舌打ちし、銃を切り替えた。

銃身が二つ、三つ、空中に生成される。


「おい亜里野。

 楽しみにしてろよ。勝負は“ここ”からだ。」


銃口が翔馬を捉える。


翔馬もまた、拳を握り前に進む。


YOU diedは鼻で笑った。


「向かう方向がちげえぞ、亜里野。

負け犬らしく逃げてろよ、あいつらは置いてな。」

「...........」


黙りこくった翔馬が呟いた。


「.....お前は置いて行かれたのか?」


YOU diedの足が、一瞬だけ止まった。


「.........は?」


「何に執着してんだよ、お前。」


YOU diedが明らかな怒りの表情を浮かべる。


「黙れ、撃ち抜いてやるよ……ヒーロー気取り。」


YOU diedが生成した銃の引き金を引く。


その瞬間、空気が破裂した。


FPSの嵐と、翔馬の“二歩目”がぶつかり合う。


YOU died が生成した銃火器の嵐が、

校舎跡を再び“戦場そのもの”に変えた。


アサルト、ショットガン、グレネード、

銃撃と爆風が絶え間なく続き、

翔馬の服は裂け、肌には切創が増えていく。


それでも翔馬は止まらなかった。


「はぁ……はぁ……ッ……!」


YOU diedは歩きながら銃を切り替え、

それを“余裕の笑み”で眺めていた。


「さっきより遅いぞ?

 どうした、double stepってのはその程度か?」


翔馬は食いしばる。


「……うるせぇ……!」


再び踏み込む——


バンッ!!


弾丸が翔馬の肩を掠め、鮮血が舞う。


YOU diedは肩を竦めて笑う。


「ほらな。

 俺がちょっと本気出したら……近づくことすらできねぇんだよ。」


翔馬が苦し紛れに叫ぶ。


「どうかな....!!」


YOU diedは銃を回転させて笑いながら遮った。


「お前は本当に.....!!」


そして銃口が下がる。


ひとつ、呼吸を吸い、


「————世界一の馬鹿だな!!!」


次の瞬間、

YOU diedが“ゼロ距離”まで踏み込んでいた。


翔馬の視界から、YOU diedの姿が完全に消える。


(……速ぇ……!?)


違う。


速いのではない。

“音も足跡も殺している”。


FPSのプレイヤーが

敵の死角に回り込む“最短の動き”。


それが現実で再現されている。


「お前の真後ろだよ。」


翔馬の背中で、その声が落ちた。


振り向くより早く、銃口が押し当てられる——!


「——ッ!!」


翔馬が二歩目の予備動作に入る。


YOU diedは嘲る。


「踏めよ。

 二歩目を発動する前の“タメ”——

 一番狙いやすい瞬間だ。」


やべぇ!避けられ....!


銃口がわずかに押し込まれる。


バンッ!!


爆音。

翔馬は横へ吹き飛ばされ、瓦礫に叩きつけられた。


脇腹から血が溢れ出す。


「がっ……ぁ……!」


YOU diedは無造作に歩きながら、地面に転がる翔馬を見下ろす。


「分かったろ?

 お前のスピードは俺に通用しない。」


翔馬の視界がノイズに揺れた。


何とか翔馬は立ち上がる。


ふらつきながら、血を拭って顔を上げる。


「……負けるかよ....お前にだけは....!」


YOU diedの足が、僅かに止まった。


だが表情は平然。


「いい加減にしろよ亜里野。

 勝負はついただろうが、死ぬぞお前。」


言葉は完璧。

声も揺れない。


ただひとつ、

銃を持つ“右手だけが”微かに震えていた。


翔馬は気づいていた。


YOU diedは気づかぬふりをした。


再び銃を生成しながら、吐き捨てる。


「終わらせてやるよ。

 お前はここで——」


その瞬間。


「最大出力だ....!!」


翔馬がボロボロの足で、地面を踏む。


YOU diedの目が見開かれた。


次の瞬間、


翔馬が足の角度を“真下”に向け、

地面を砕くように踏みつける。


違う、砕くようにではない。

YOU diedの足元が瓦解した。

「なっ!!?」


——double step。


翔馬の身体が

重力を無視して“真横”へ弾丸のように跳ぶ。


YOU diedの銃弾は当たらない。


(——ッ!?地面を崩して....!バランスが取れない!)


YOU diedが振り向くより速く、


翔馬の拳が

YOU diedの頬に——


「させるかよ……!」


YOU diedは拳で迎撃した。


二つの拳がぶつかり合い、


衝撃が周囲の瓦礫を跳ね上げる。


互いの拳が、同時に鈍い音を立てて砕けた。


翔馬の拳の骨が軋む。


YOU diedの拳にも青黒いオーラが浮かぶ。


ほんの微か。

YOU diedが揺れた。


——優大、俺はどこにも行かねぇから。


外側の彼はただ笑う。


「最高に楽しいな、亜里野……!」


翔馬が汗と血を散らしながら

YOU diedへと目線を向ける。


「くそ...!最大出力も....!」


YOU diedが叫ぶ。


「来いよ亜里野ぉ!!!」


「YOU died!!!」


二人が再び踏み込み——


物語はついに

“本当の最終決戦”へ突入していく。

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