ヤンキーとお嬢

黒猫ルー

短編 ヤンキーとお嬢

俺は、中学までは優等生だった。今でも腰の悪い近所の吉江さんを助けたり、通学の電車で席を譲ったりする。


それなのに何時からか、俺は不良になった。


「っオラァ!」

「グッ…、てめぇ!」


学校をサボって川のそばで寝ていたら、今日も知らない奴らに絡まれた。


高校に上がって、やさぐれて髪を染めた。学校を何度も休んだ。財布を盗まれた吉江さんを助けた。


それだけなのに、俺はどうやら喧嘩が強かったらしく、殴られてやり返したりしたもんだから、毎日こんな風に絡まれるようになった。


「まだ倒れてねーんだよ!おらくらえや!」

「っ?!」


伏していたやつに足を捕まれ、足を捻って体勢を崩す。その隙をついて他の奴に集団リンチに合う。

今までの鬱憤か容赦なく蹴られて、すぐに俺は動けなくなった。


「雑魚じゃねーか、二度と逆らうなよ負け犬」

「牙狼組に逆らうと、こうなるって覚えとけ!」


多対一で何を偉そうに、誰だよお前俺がやったの別の奴だろ、名前ださいな、とか思うけど、喉が潰れて声が出ない。

どの道言ったらもっと蹴られるし黙るに限る。


「ゲホッ、ゲホッ!…ぁ゛あ゛!」


仰向けで寝ている間にチンピラ共は倒れた奴担いでどっか行った。やっと平和になったけど、多分またアイツらが悪さしてたら止めるしかないし、また関わるんだろうな。

……めんどくせーけど、もっと強くならないと。


こんな事してたって人生終わってくだけなのに、何やってんだと思う。でもどうせ心配する奴なんて居ないし、もういいや。このまま死にてー。


「……お兄ちゃん、大丈夫?」

「……………………あ?」


晴天の視界の中に突然、ぬっと子供が映った。女の子で髪を下ろしてるから、下から顔を見ると集中線みたいで少し面白い。


…いや、てか誰だ?なんでこんなあからさまにやばい見た目の男に声掛けんだ危ねーだろ。怪我した奴心配すんのはいい事だけどやめろって言いたい。


「グッ…!ゴホッ!ゴホッゴホッ…!」


ダメだ、喉が思った以上に死んでる。これ潰れてるかもな、やべぇ。


「お嬢、ほっときやしょうや」

「でも、痛くて苦しそうだよ?手当してあげるか、救急車呼んであげないとだめだよ!」


なんか賢そうな子だな。髪の毛で顔見えないけど、男は黒スーツ来てるしなんか厳つい。

綺麗な顔してるし『お嬢』ってイイトコ育ちか。


物珍しさで倒れた男に近づいたのか。だったら近くの男がちゃんと止めるだろうな。大体俺治療費払えないし、お礼の品とかも買えねーから、本当に放って置いて欲しい。


「まあこれだけボロボロなら確かにそうっすけど、死んでないしなん」

「ミツくんおんぶしてあげて」

「お嬢、く」

「帰るよミツくん、急いで!」

「……はぁ、分かりました 」


は?家に連れ帰るって、正気か?俺を?なんで?


「じゃあすー助に手繋いで貰う〜」

「うす。菅助頼むぞ」

「はい!お嬢、俺と手繋ぐの久しぶりだ〜!」


状況に追いつけてない間にもう背負われてた。ミツと呼ばれてたのは金髪でピアスバチバチの、高身長でモテそうな洒落た男。周りを見たら菅助とかやらの他にも、なんか4、5人後ろについてる。


……え、お嬢ってソッチのか?


「だってすー助、うるさいんだもん」

「えー!酷いよお嬢!」

「菅助黙れ。あや様にタメ語やめろ、殺すぞ。…あと、俺の背中で暴れたらお前も殺すぞ」


怖、サラッと小さい声で俺も脅された。菅助さんも1発で黙っちゃったよ。


「お兄ちゃん、すぐにわたしが助けてあげるからね。ミツくんお兄ちゃんの事だいじに運んでね!」

「大丈夫っす、落としたりしませんよ」


脅されたから動けないしな。


あー、これ確定事項だな。女の子にっこにこだし、口動かせないから詰みだし。…覚悟決めとこ。


───────────────────────


「あー、って口開けてみぃ。あーって」


あれから数十分。やっぱり家は立派な館で、『お帰りなさいませお嬢!!!!』ってひっろい入口の道の脇に怖いおっさん達が並んで頭下げてた。

すぐにギョロっと目が俺見るしめっちゃ怖かった。


今はなんかおじいちゃんの先生に診察されてる。見た目が普通に、その辺に居そうな優しいおじいちゃん。


「ねぇドンさん、お兄ちゃん大丈夫だった?」

「うむ。まあ大丈夫じゃろ。潰れとらんし」


『ドンさん』まじか。実は強者なのかもな。診察適当な気がするけど、手当の手際はすごく良かったし、喉潰れてないのは安心した。

生姜湯貰った。初めて飲んだけどあったけぇ。


「良かったぁ、お兄ちゃん生きてる」

「身体が丈夫なんじゃな、骨折もしとらん。喉もすぐに良くなるわい。ほら、飴もやるぞ」

「……あ゛ざす、ケホッ…!」


本当だ、声が少しだけど出るようになってる。ホッと息を着いたら女の子がぱぁっ!と顔を輝かせる。

こう見ると普通の女の子なんだけどな、周りがあれだと凄いお嬢って感じだ。


「あんまり話さず安静にのぉ」


おじいちゃん先生ははっはっはと笑って部屋を出てしまい、女の子と二人きりになる。先生が外出てく瞬間めっちゃ黒スーツ見えた、怖い。


「…あ゛の、お嬢゛さま゛」

「綾音だよ、みんなあやかお嬢って呼ぶよ」

「……じゃあ゛、お嬢゛。ケホッ!」

「なぁに?」


連れ去られた先がこんなとこだし、言うタイミングも遅れたけど、ちゃんとこれは言わないとな。


「あり゛がとう、助゛かった」

「えへへ!どういたしましてー」


お礼を言われて嬉しそうな所も可愛い。これはさぞ愛されて育ってるんだろうな。あの人達に守られてたら大丈夫だろうけど、ちゃんと危ない人には声かけないように言わないと。


なんとか咳き込みながら話すと、お嬢は


「知らない人じゃないから、大丈夫だもん」


と言って膨れた。…どっかで会ったか?


「お兄ちゃん、よくあの辺で人助けしてるでしょ。私あそこ、登下校の道だから、よく見てたの!いつ見ても人にいい事してるから、凄いなーって思ってた」


そうか、だからあの時すぐに、俺を見つけて河川敷まで降りて、声をかけてくれたんだ。

……そっか、そうか。


「あのね、私お兄ちゃんを助けられてうれしい!」

「……っ、うっ…、…グスッ!」

「えー!お兄ちゃん泣いちゃった……!」


ただの気まぐれだって思ってた。俺みたいに、誰にでも優しくしちゃうんじゃないかと思った。俺なんか、誰にも必要とされない人間だって、段々陰鬱になってた。


違った。お嬢は、俺を見つけてくれた。久しぶりにまともに見た優しい顔に、どうしても涙が止まらなかった。ダメだ、死にたいと思ってた気持ちが死ぬほど、その事が嬉しい。


「ど、どうしようっ、ミツくーん!」


お嬢が困ってる、ちゃんと伝えないと。


「俺も…ッ、俺もッ嬉しいっ…!」

「…嬉し泣き?あはは!お兄ちゃん変なの〜」


…俺も、この子が将来その優しさを失わないように、ずっと笑わせてあげたい。守りたい。

無性に今そう思う。


「あ?!てめ何泣いてっ…!」


ガラガラガラッ!と扉が開くとさっきお嬢に呼ばれたミツさんがびっくりしてお嬢を外に出した。そのまま俺に向かってハンカチを投げる。


「それ使って顔拭け!で早く泣きやめ!」


……泣いてるだけで凄い慌てようだな。乱暴だけどハンカチくれたし、いい人なんだろうな。

ここに来てから怖いと思ってたけど、部屋に来る途中で嫌な事は何も無かった。それどころかお嬢を心配する声が飛んでくるし、おじいちゃん先生を呼びに行く人もいた。


なぜだか妙に居心地が良いんだ。ずっとここにいて、この人達のように、お嬢のそばに居たい。


「あの゛、ミツさ゛ん?」

「…光希だ。あんま喋んなよ」

「光希さ゛ん。俺も゛お嬢゛の事、守゛りたい゛です」


ぐすっと鼻を鳴らしながら言うと、特におどろくわけでもなくため息を吐かれ


「組長に直接言え」


と言われ、逆に俺が驚く。


「お嬢は人たらしだからな。この組にお嬢が連れてきた奴も一人や二人じゃねーよ」


まあ確かに、あのお嬢なら生まれた時から人を魅了してるだろうな。てことは色んな人がいる訳で、俺なんか度胸試しとか、組に入る為の試験でもあるかもしれない。それとも受ける前に追い出されるかも。


組長を納得させて入る事が、俺に出来るか?


「お兄ちゃんも家族になるの?!やったぁ!すー助すー助、聞いた?!」

「お、おおお嬢落ち着いて!」


扉の前が騒がしい。お嬢様が跳ねている振動がする。そこまで喜んでくれるなんて。


「…光゛希さ゛ん、俺゛頑張り゛ます」

「?、おう。…とりあえず菅助は絞めるか」

「ぎゃーッ!?ミツさん拳骨はやめッ、痛い!」


「ふっ、はははっ…!」


うん。俺の笑顔を出してくれたお嬢とこの場所の為に、俺は頑張ろう。

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