三人の被害者たちと誘拐犯
宗純無骨
第1話 この中に殺人犯がいる、と誘拐犯がいった
「この中に殺人犯がいる」
低い声でオオカミ男はいった。年齢を感じさせる男声。聞いたことはない。出会った全ての声音を覚えているとはいわないが、三十代でありある程度の社会性を持った私は目の前の着ぐるみをまとった男と初めて出会う。
発言に恐ろしさが沸き立つ。
この中、というのはおそらく私を含んだ三人の着ぐるみの後ろ手で拘束された人物たちだろう。
童話にいるオオカミ男の誘拐犯。サスペンダーをきたピンクの子豚。逆に大柄な熊の着ぐるみ。私の着ぐるみが何かはわからない。触覚を頼りに推し量ろうとしたが難しい。緊急時にそんなことをしている場合ではない。
猫背のオオカミ男は足を引きずりながら近づく。子豚はびくりと震える。怯え、戸惑い、予測。顎をオオカミはクイとあげる。
くぐもった声をあげる。着ぐるみを着ている、だから声の濁りにつながる。着ぐるみを着ているという現在のステータスでは正常に聞こえない。必死に耳を傾けた。
「名前をいってもらおうか」
質問に際し私は疑問を思った。オオカミ男は誘拐犯だ。状況的に事実といって差し支えない。
名前を聞きたいというのは、ストレートに考えれば名前を知らないから。しかし、誘拐という犯罪には計画性が必要だ。
少なくともオオカミ男は私を含めた三人に不可解な着ぐるみを着せている。電力が通っている人気のない廃屋に連れ込む知識と行動力を持ち、かつ私を、私たちを誘拐できたという事実。これら三つから名前を聞くというのはわかっていることを検める確認という行為であるだろう。
知っていながらオオカミは聞いてくる。
まず声をあげたのは子豚の女声だった。
「あ、葵。奥村葵」
きれいな名前だ。おそらく二十代前半。よく見ると着ぐるみのサイズがダボついている。その外見から奥村葵はどちらかといえば痩せ型だろう。女声によどみがないはっきりとした声。普段からはっきり喋ることを意識している。声には不安はある、が、それ以上に確実に伝えることを念頭に置いている。就活生という印象だ。
「隅田平八だ」
対して大柄な熊の横柄な声。この中では一番大きい熊の年齢は私より上であると感じた。暴力的なアプローチを手段として持ち合わせている、ある意味でオーソドックスな人格。痰が絡んだような嗄れ声なのは飲酒喫煙の経験があるからだろう。
最後から二番目になった私は名乗る。
「小沢正孝」
オオカミ男は当然名乗らなかった。
「殺人犯がいる、それが誰かを議論しろ」
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