めちゃくちゃ良かったです。
SF設定なのに、読後感はむしろ静かな家族小説に近い作品でした。
特に巧いのが、「母性」を感情論ではなく、“選択”として描いているところ。
サナエは最初、あくまで高性能な支援アンドロイドとして振る舞う。言葉は正確で、合理的で、どこか冷たい。けれど実との生活の中で、少しずつ“正しさ”からズレていく。
そのズレこそが、この作品における母性なんですよね。
「合理的利益を優先するなら母ではない」
「子どもの“いま”を優先して自壊へ向かうなら母に近い」
という終盤の思想は、かなり強烈でした。単なる泣きSFではなく、テーマとしてしっかり刺してくる。
また、実の視点が終始子どもらしいのも良かったです。
大人の事情や制度は理解できない。でも、“今ここにいてくれる存在”の重さだけは分かる。
だからこそ、「バックアップ可能な存在は母っぽくない」という感覚が異様にリアルで痛い。
サナエの変化も本当に良い。
最初は「定義」「合理性」「利益最優先」といった機械的な応答ばかりなのに、後半になるにつれて“沈黙”や“言い淀み”が増えていく。
その不完全さが、逆説的に人間らしく、母親らしくなっていく構造が美しかったです。
ラストの、「私は消えたくありません」から「お母さん」へ至る流れはかなり胸に来ました。
“母とは何か”を、制度・血縁・感情・不可逆性から丁寧に掘り下げた、静かで痛くて優しい傑作SF作品です。