黄昏の記憶





―――――――――


今日は雨、そう確かこんな雨の日だった。


朝、弱い雨の日。日課のランニングに出た。

空気の澄んだ道を走っていた。

ツルッと足を滑らせ、川に落ちてしまった。


必死にもがいたが、上か下かも分からず、

流されていく中で意識を失った。


どれくらいたっただろう。

やけに静かな湖の端で、目を覚ました。


「次、6人まで乗んな」



身体を起こし、

濡れているのに感覚があまり無い。

声のする方へ目をやると、

古い着物を着たお婆さんが、


少し薄れた人達を、木の船に乗せていた。

20人前後だろうか。並んで待っている。

何となく吸い寄せられるように、


列に並ぶ。


「チャリッ」


何かがぶつかる音がした。

何故か皆、小銭を握りしめている。

人々が順番に船に乗り、


私の番が来た。

お婆さんが不意に言った。


「あんた……まだ死んでないね」


意味が分からず、


「え? 生きてますよ」


お婆さんはため息を吐き、


「送り返してやるから、出すもん出しな」


理解した。


これ……三途の川を渡る場所か。

このお婆さんが案内人か。


デコに短い角がある。


「すみません、今なにも持ってなくて」


急に不機嫌になったお婆さんは、


「ウザっ!アンタみたいな奴が

 一番要らないのよ」


「えッ!!」


心底驚いた。


ランニング中に足を滑らせただけだ。

何も持っていないし、

好きで溺れたわけでも無い。


「分かった。返してやるよ。片目を貰うよ」


視界が、ゆっくりと傾いた。

その瞬間、立っていられないほどの痛みが

私を襲った。


「うぁっ……熱い」


目の奥に焼けるような痛み。

意識が遠のいていく。


「駄賃に、貰っておくよ」


片手で湖に、ぶん投げられた。

それからは、よく覚えていない。


気が付くと、近所の浅い川の岸辺に、

全裸で倒れていた。帰りは悲惨だった。


夕方皆が、帰宅している時に、

段ボールから手足を出して

走っている人間なのだから。


心無い言葉が胸をえぐり、


投げられた石が手足をえぐった。


「しんどかったな〜あの時は」


紅茶を一口飲み、

黄昏れたように上を向いて。


奪衣婆……次会ったら、


「ぶん殴る」


――――――――――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る