女騎士
アスラはとても待ち遠しかった。
噂に聞く大盾のライズはとてもかっこよかった。
どんな敵にも怯まず、どんな敵も彼の前では進めない。さらに彼はその敵の強弱に関わらず全力で盾を構える。そんな話を聞いてどんな男なのだろうと期待を膨らませていた。
「アスラさんあの人です」
突然ニコに言われ辺りを見回す。アスラの探し求めている大盾のライズがいない。
「いや、だからあれですよ」
とうとうニコは目的の人物に指をさす。長い髪をそのままにし、一人さみしく酒を飲んでいるライズを
「あれが大盾のライズ」
思っていた人物とは違うが確かに彼の持つ大盾には武具として際立ったものを感じる。
「では早速行くとするか!」
そのまま彼の方に向かっていく彼女に
「あ、いや待ってください。昨日僕はそれで失敗して……」
ニコのその声は届かなかった。
今日もライズは酒を飲んでいた。これが最後の一杯になるようにと。
いつものように静かに飲んでいると突然騒がしい声が聞こえる。
何だ?と思い一瞬だけ視線を向ける何やら騎士と誰かが揉めているようだ。
「誰がバカをやったんだか」そう呟いてグラスを傾けると不意に俺の目の前に人が座る。
何故だ?何故わざわざこんなところに座る。抗議の声を上げようと目の前を見ると騎士と思われる女性がこちらを見て目を輝かせていた。
なるほど、年貢の納めどきか。そう思い、慌ててグラスを空にする。
「騎士様。抵抗はしません。どうか騒ぎにならぬよう配慮願います」
そう言って立ち上がろうとする。
「おいおい。せっかく私が一緒に飲もうと思って酒を持ってきたのに、もういなくなるのか?」
と彼女が手に持っていたグラスを指し示される。
どういう状況だろうか。まったくわからない。
まずは話が聞きたいということか。
とりあえず立ち上がりかけていた姿勢を戻し座り直す。すると女性は満足そうにウンウンと頷く。
「なあ、その大盾やはり普通ではないな。少し触っても?」
と聞かれる。流石は騎士様。これが師匠の盾である事を知っているという訳か。渋々背中から大盾を取り外しゆっくりとテーブルの上に置いた。
すると目を輝かせた女騎士は。
「これはすごい。歴戦の傷が伺える。きっと貴方はとんでもない数の敵をこの盾で受け止めてきたのだな」と感心してくる。
そうだろうな。この盾はもともと師匠の物だったんだ。多くの傷が着いているのは当然である。
「それはもちろん師匠が最後まで使っていたものだからな」
と懺悔する。
「ほう。これは貴公が師匠という人物から受け継いだものだということか。ふむふむなるほど。つまりあれだ元々その師匠という人が使っていたものを譲り受けたというわけだな。実によい師匠から弟子へ武具を受け継ぐ。やがてその武具が伝説となり……」
そんな騎士の態度にライズはようやく、これまでの会話を思い出す。まるで話がかみ合っていない。しかもよく聞けばつまりとか言いながら言葉は違えど同じことを二度言っている。
「あの、騎士様?俺を捕らえに来たのでは?」
とあまりの状況にもはや自白とも取れる問いかけをしてしまった。
「何?何か悪いことをしてしまったのか?」
と尋ねてくる。
もはや何が何やらわからず周囲を見渡す。すると見知った顔が興味深そうな顔でこっちを見ているのが見えた。あいつの仕業だな。
「おい、ニコ。お前。こっちに来い!」
そう言ってこの理解不能な状況からの脱却を図った。
ニコを呼び寄せ、三人で座る。
「おい、ニコお前が関係してんだろ?昨日まで俺は一人で静かに飲んでいただけだったのに。お前が昨日現れ、今日はこの変な騎士だ。」
そう言ってニコに詰め寄る。
すると
「変なとは何だ変なとは!お前のように大盾を使う冒険者のほうがよっぽど!変わっているという意味では変だぞ!」
と女騎士が口を挟む。
確かにそうだ。大盾を使って冒険者をする人など一握りだろう。
だがそういうことではないのだ。
「そもそも騎士様?あなたは何者なんですか?」と純粋な疑問を投げかける。
ふふん。よくぞ聞いてくれたと言った態度でどや顔を浮かべながら
「よくぞ聞いてくれた」
(ほんとに言ったよ…)
「我こそは白銀のアスラ!その人だ!」
ドドン!と効果音が聞こえた気がするが気のせいだろう。
そもそも誰それである。
「ほ、ほう白銀のアスラねぇ……」
そう言ってニコの方に小声で
「すごい人なのかこの人?」
と尋ねるも
「変な人だよ」
と言われ当てにならない。
「それでその高名な騎士様が何用なんです?」
そう尋ねる。
「私は今ひじょーーに(非常に)大切な任務の最中ではあるのだか、その際にとある噂を聞いたのだ。大盾のライズという冒険者の。話を聞くと一切剣を抜かず敵に相対すると。これは面白い。ぜひこの目で見てみたいと思ったのだ!」
……
え?終わり?は?どういう事なんだ?
ライズは思わずニコの方を向く彼もあきれているようだ。
この騎士が現れた時にしたライズの覚悟は何だったんだのかと天を仰ぐ。こんなのが騎士なのか。
自身を見て、師匠の盾を見て、己の自白までもがすべて流された。まるで川の水が下流へと引きこまれるかのようにあっという間に。
あの忌まわしい記憶でさえも流れに逆らえず下流へと消えていく。そんな世界にもっと頑張れよと理不尽な思いがこみ上げた。
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