軽キャンで異世界無双したおっさん、気づいたら国を作っていた
ミルク
第0話 プロローグ
太古の昔——
神々の住まう高天へ、地上から一体の竜が侵攻した。
その名はヴァルリオ。憎悪に濁った双眸を持つ暴竜である。
怒りの咆哮は大地を割り、悲しみに満ちた翼が振るう風は天を裂いた。
幾日にも及ぶ神々との戦いは苛烈を極め、多くの神が倒れた。
それでも神々は力を振り絞り、ついに暴竜を地上へ追放し、封印することに成功した。
——それから数百年。
世界の北端、“終焉の大地”と呼ばれる荒野に、魔王城はそびえていた。
大地は黒く焦げ、深い亀裂が走り、生命の気配は一切ない。
空は常に曇り、弱々しい光が雲間から漏れるだけ。
魔王城は黒曜石のような漆黒の石で築かれ、塔は天を貫くほど高く、
城壁は歪んだ魔力の膜に覆われている。
近づくだけで肌が焼けるような圧力があり、地面には魔力の残滓が霧のように漂っていた。
——ここは、世界で最も“死”に近い場所。
その最奥、玉座の間。
冷たい石壁が闇に沈み、魔力の残滓が燐光のように揺らめく中、
勇者と魔王は満身創痍のまま向かい合っていた。
「ハァ……ハァ……魔王……これで終わりだ……!」
勇者の身体は血に濡れ、鎧は砕け、聖剣はひび割れている。
それでも瞳だけは折れていない。
対する魔王もまた、黒い血を滴らせながら笑った。
「勇者の力がここまでとはな……
だが、貴様の光は……ここで潰えるのだ!」
魔王のロッドから黒炎が奔流となって吹き荒れ、
勇者は光の盾を展開して受け止める。
ギィィィィィン!!
光と闇がぶつかり合い、玉座の間が震えた。
床石が砕け、壁が崩れ、瓦礫が降り注ぐ。
「うおおおおおおッ!!」
「消え失せよォォォ!!」
互いの魔力が衝突するたび、空間が歪み、世界が悲鳴を上げる。
——幾度も死線を越えた攻防の果てに、もはや退く道はない。
勇者は歯を食いしばり、叫んだ。
「……ここで倒れれば、世界は終わる。
俺が止めるしかない……!」
「ならば来い、勇者ァァァ!!
この世界は闇に沈むのだ!!」
ゴゴゴゴ……
勇者は聖剣に、魔王はロッドに、限界を越えた魔力を注ぎ込む。
命を削り、魂を焦がし、ただ目の前の敵を倒すためだけに。
空間が歪むほどの魔力が渦巻き、音も光もねじ曲がる。
そして——。
……ブロロロロロロロ。
玉座の間の外から、低く唸るエンジン音。
世界がスローモーションになった。
次の瞬間——
ドゴォォォォォン!!
外壁が爆発したように吹き飛び、瓦礫が雨のように降り注ぐ。
瓦礫の雲を突き破って現れたのは——
軽トラックベースのキャンピングカー。
略して、軽キャン。
ヘッドライトが闇を切り裂き、タイヤが石床を削りながら跳ねる。
ドガァァァァッ!!
衝撃波が玉座の間を薙ぎ払い、
勇者が吹き飛ぶ。
魔王も吹き飛ぶ。
軽キャンだけは無傷。
二人は床に叩きつけられ、魔力の残滓とともに砂のように崩れ落ちた。
——勇者、死亡。
——魔王、死亡。
(※防御ゼロの相手に、軽キャンが全力で突っ込んだだけである。物理は強い。)
キキキキィィィッ!!
軽キャンが横滑りしながら玉座の間の中央で止まる。
黒い砂埃がゆっくりと晴れていく。
ガチャッ。
運転席のドアが開き、細身の眼鏡をかけた四十過ぎのおっさんが顔を出した。
「ヤベッ……今、なんか踏んだよな?」
こうして——
異世界の命運を握る戦いは、一台の軽キャンによって幕を閉じた。
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