19._(;3 」∠)チョー痛い

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 アーサー達が最初に入村した時の門は裏口であったようで、正門に当るキチンとした関所が反対側にあった。そこからロープウェイを使うことで市街地に降りていく、そこはかつて巨大な竜が開けたクレーターの跡地に村民の住居や商業施設がすし詰め状態になって日々を精一杯生きていた。


「帰ったぞーアーサー! 喜べ、お土産あるぞー!」

「おう、こっちも準備は万端だぁ」


 ビアンカ達が観光旅行から戻って来ると、アーサーは無精髭を剃ってワイシャツの上にダークブラウンのベストを着込み、腕にはロレックスモドキを巻いていた。オレンジ色の柄物ネクタイも丁寧に結んでいたがダサ過ぎてどうも胡散臭く見える。


「あれ? 部屋に入らないんですか?」

「何、丁度良いからお前らの度肝も抜いてやろうと思ってな」

「オォン」

『なんか臭うよ』

「そりゃそうよ、全部手入れしたからな、油がべっとりしてるぜ」

「なら洗って来い! じゃねーとお土産渡さねーからなー」

「( ̄^ ̄)))ちぇー」


 お土産は干物の詰め合わせ。干物を分け合って一つずつしがんでいるとチッカがやって来た。


「あら、昼食の用意が整ったのですが、もうお済みになられましたか?」

「あ、ごめんなさい、商店街で美味しい物たくさん食べちゃいました。でもお昼も楽しみにしてますよ」

「俺も喜んで頂きますよ。なんなら全員分食えますから」

「ふふ、ではすぐにご案内します」


 村長屋敷の敷地は広く、本宅と使用人用宿舎の他に集会所と厩舎、それから広大な果樹園が広がり隣接して自警団の敷地が続いている。

 食堂は本宅の中でも集会所に面した位置にあり、アーサーが準備していた部屋は窓からも見える位置にあるが、カーテンが閉められていて中は窺えない。

 用意された昼食は豪華だったが、すべて残さず平らげた。


「ご馳走様でした」

「スゴいですね。もう召し上がられたのですか?」

「まあねー。やっぱり露店のよりもずっと美味しいし」

「ああ、丁度良い量だったよ」

「ありがとうございます。ではこれから主人の元へご案内して宜しいですか?」

「はい、お願いします」


 案内された部屋では村長が椅子に座って寛いでいた。しきりに親指で人差し指を擦っているのが気になった。


「いやあ、待っていたよ。早速君が集めた品々を見せて貰おうか」

「ヒヒヒ、謹んでご案内します」

「?」


 先程まで居た部屋の前まで来ると、アーサーがドアノブを掴んだ。その瞬間、村長はあっと声を上げた。


 バチッ!


「………痛くないのか?」

「我慢すれば普通に開けられます。簡易的な防犯でございますからね」

「ほう、そうかそうか……」


 どうやらフライングして痛い思いをしていたらしい。


「ではご覧頂きましょう。我が兵器廠保管庫の一部を!」


 扉を開けたその先には大量の刀剣が所狭しと並べられ、机の上や壁に立て掛けられたものに加えて専用のショーケースで間仕切りを作って一通り見て回れるよう配慮が為されている。


「な、なんだこれは?! ……て、天井にまで………!?」

「場所が限られるので、刀剣類に"限定"して飾らせて頂きました」

「うぅむ……何!? 他にもあるのか?」

「ここにある種類で全体の2%、と言った所でしょうか」

「2………!?」


 絶句している。期待した以上の反応だ。


「因みに気に入った物が有れば販売も致しますぜ?」

「この全てか!? ……君は戦争でも始める気か?」

「滅相もありません! 出来るか否かはともかく……」


 シャイターン村長の目に厳しさが宿る。しかしすぐに呆れるような溜息を吐いて首を振るった。


「やれやれ、今の世において刀剣で戦争などと時代錯誤も甚しい。君達が使うのならばまだしも、我々には無用の長物だよ。だが需要が無い訳でもない、言う通り気に入った物があれば言い値で買おう」

「ありがとうございます」

「確認しておきたいのだが、数に限りはあるかね?」

「物に寄りますが、一振り辺り200までとさせて頂きます」

「ハッハッハッ、君は軍隊と取引でもしているつもりかね? そんなに買えるか!」


 流石の村長も突っ込まずには居られなかった。


「とは言えお抱えの私兵に揃いの上等な武器があると、見栄えも士気も上がるでしょう? まとめてお買い上げで割引き、総額が高くなればお好きな一振りをも差し上げましょう」

「ふんっ、とんだ武器商人だな。珍品が見れると思いきや、在庫を見せつけるとはガッカリだよ」

「いえいえ、これらは正しく私の大事なコレクションです。私がこれまでに"使いこなした武器"というテーマに沿ったね」

「……ふぅむ成る程、今は胡散臭い商人(セールスマン)の格好をしているが、それ以前に君は戦士であるな。これらすべてを使い熟せられるとは俄には信じられん、その上これでもほんの一部でしかないと言う」


 今一度武器を眺めるその横顔はやはり厳しい表情をしている。


「…………やはりこれは私の手には余るな」

「……と言うと?」

「一田舎村にこれ程の規模の武器があると知れたら、謀反を疑われる可能性が高い。いや、それ以上か。悪いが君の後ろ盾になるには少々私には重荷のようだ」

「残念です」

「フッ、言う割にそんな風には見えないぞ。だが今の私の村には重荷であるのは事実、しかし私でさえ持て余すとなればそうだな、下級貴族では召し抱えるにも私と同じかより悪い事になるだろう。かと言ってただの上級貴族では今更こんな骨董品、珍しくとも手元に置いて腐らせるだけだ」

「凄い事言いますね。まるでどんな貴族でも紹介出来ると言わんばかりですよ」

「その通りだ、ツテはある」

「え」

「そうさ、君達は残念がる必要はないのだよ。我が村の特産品は王侯貴族の御用達だからね。その内の幾人は私と趣味を共有する同志でもある。それこそ上は公爵から下は男爵まで、10年前であれは王族にも口を効いてやれたがその御方は既に亡くなられている。まぁ貴族以外にも同志は沢山いる。この国の権力者へのツテの多さは自負している、きっと君達に見合う者に紹介もしてやれるさ」

「大した自信だねー、でもそー言うアンタこそ残念そうに見えるけど?」

「いやぁ本音を言うとだね、例え疑われたとしてもこの蒐集品コレクションの威容を手放すのは惜しいとは思っている、だが私には村長という立場がある。村民の生活を考えれば要らぬ火種は起こしたくない」


 そう言いながらシャイターン村長は一振りのレイピアを手に取った。鞘から抜き出してその重心や握り心地を確かめ、軽く振るうと聞こえる風切り音に耳を傾けて満足すると鞘に戻した。


「然りとて、私の商人として培った勘とこの眼で見ても、武器として一級品の量産品をこれ程仕入れられる機会は滅多に無い。200本ずつはムリだが、全部で200本程買取らせて貰うからその積もりで頼む」

「ぉぉ……俺が言うのも何だが、200本でも十分疑われる数ですぜ? 火種どころかボヤ騒ぎでしょう」

「ハッハッハッ! そんな事、200本の量産品で怪しまれるのなら200種類の骨董品を飾れば良い。君の倉庫は底が知れんが、私の倉庫と財布の広さは貴族を除けば随一だ。入れて置くだけなら200でも2000でも平らげてやるさ! ハッハッハッ」

『借金の形に持て余してた骨董品は入らなかったのに?』

『都合のイイ倉庫なんだなぁ?』

『『プヒャーwww』』

「(上手くねぇから黙ってろ)左様で」

「全く君達は運が良い、これが商談なら専門の鑑定士を読んで適正価格を考慮するが、今は私的な取引であるから私の好きな物を自由に買い取るぞ。所でコイツは君達を迎えられない不甲斐無い私からの慰謝料だ。取っておきなさい」


 村長が言いながら手にした長財布に肘まで差し込んで取り出したのは、袋にパンパンに詰まった硬貨だ。鈍器カテゴリのブラックジャックに"袋詰め硬貨"と言う名前の武器があるが、内容量はその五倍はありそうだ。

 受け取ったユウはそれを鞄に仕舞った。


「受け取ってばかりで何だか申し訳ないです」

「気にするな、君達は投資するに値する原石だ。先の報酬だけでは足りないと思っていたのさ。さあさあそんな事よりも、買い物を始めよう! わたしは待つのが苦手なのだよ」

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