Golden Glory
如月 睦月
第1話 忘年会という名の戦場
この施設は、忘年会の余興で一度も優勝したことがない。
それは誰かが声に出して宣言したわけではないのに、
全員が当然のように共有している事実だった。
「今年も誰かにやらせたらいい」
施設長村山のその言葉は毎年、空気のように漂っていた。
誰かが言い出す前から、もうそこにある前提。
努力しないための免罪符。
期待しないことで自分を守るための呪文。
けい子は、その空気が昔から苦手だった。
本気になることは、そんなに恥ずかしいことなのだろうか。
勝ちたいと言うのは、空気が読めない証拠なのだろうか。
負ける前提で笑っているやつらに、プライドはないのだろうか。
わからなかった。
わからないまま、六年が過ぎていた。
忘年会は余興だ。
仕事じゃない。
評価にも給料にも直結しない。
そう言われれば、確かにその通りだ。
だから誰も、負けても本気で悔しがらない。
正確には——悔しがらないふりをする。
けい子には、その“ふり”が痛いほどわかった。
自分も、同じ顔をしてきたからだ。
六年間、勝てなかった。
それは事実だ。
でもその六年間、本気で「勝ちに行った」年はあっただろうか。
なかった。
少なくとも、けい子の記憶にはない。
「どうせ勝てないし」
「あいつに歌わせとけ」
「めんどくさいし」
そんな言葉を耳にするたび、
胸の奥に小さな澱が溜まっていく感覚があった。
飲み込んで、見ないふりをして、
それでも確実に重くなっていく何か。
そんな部分では、自分も同じかな…と感じる事もあった。
優勝した他の施設は、やはり練習し、準備し、
皆が楽しそうにやっている。
うちの施設は誰かにやらせ、その時間に煙草を吸いに行ったり、
応援の声もかけず、クスクスと笑っている。
少なくともけい子は惜しみない拍手をしていたけれど。
やらせておいて応援もしない。
そんな施設が勝てるわけがないと感じていた。
その日、仕事を終えて一人で歩く帰り道、
ふと、そんな澱が言葉になった。
——もし、本気でやったらどうなるんだろう。
それは、軽い疑問だった。
でも、一度浮かんだその考えは消えなかった。
むしろ、日を追うごとに輪郭を持ち、
はっきりとした形になっていった。
誰にも文句を言わせない形で、
完璧な優勝をしてみたい。
その瞬間、けい子は理解した。
これは、余興なんかじゃない。
誰かに認められるためでもない。
これは、戦争だ。
逃げ続けてきた、
笑ってごまかしてきた、
向き合うことをしない、
そして、本気になることを忘れた、だらけた空気。
忘年会というワードが出ると、
やりたくない、
めんどくさいという当然のような流れ。
うんざりだ。
そう思った時、
胸の奥にあった澱が、
静かに、しかし確かに燃え始めていた。
それは、満場一致の初優勝を見せる事で、
後に続く者へのエールにしたいという思いだった。
一回、全部ひっくりかえしてやりたい。
本気で向き合えば取れるってことを証明したい。
けい子の中でモヤモヤが加速する。
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