第2話 再開①
「採用させてもらうよ。来週の月曜日から来れるか?」
「はい、大丈夫です! 来週からよろしくお願いいたします」
恰幅のいい社長が、にっこり笑って指を組んだ。
私は椅子から背筋を伸ばして立ち上がり、深々と頭を下げる。
この会社は、神社やお寺で授与されるお守りの製造と卸をしている。
応募したのは事務ではなく
――どうせなら、“作るほう”に関わってみたいと思ったからだ。
「君、神社仏閣巡りが趣味なんだって?」
「はい。御朱印を集めるのが好きで……実は、先日行った――」
志望動機を話し始めた瞬間、社長の目がぱっと輝いた。
そこからは面接というより、すっかり神社談義だった。
参拝した場所や好きな社の名前を出すたび、「ああ、あそこは雰囲気がいいねえ」と社長が笑う。
会話が弾むほど、固まっていた肩がほどけていくのが自分でも分かった。
見学させてもらった作業場では、社長の奥様やパートのおばさまたちが、色とりどりの布や紐を手際よく扱っていた。
「やってみる?」と声をかけられ、私はひとつ、お守り作りを体験させてもらう。
針を動かす指先はぎこちなかったけれど、
小さな布袋が形になって、最後に赤い鈴を結びつけた瞬間
――胸が、きゅっと鳴った。
「第一号記念にあげるよ」
手渡されたそのお守りは、掌の中でほんのり温かい気がした。
――ハンドメイドは好き。
でも、それが仕事に繋がるなんて考えたこともなかった。
嬉しさで胸を満たしたまま、私は会社を後にした。
思えば、東地先生との出会いがターニングポイントだった。
「本当にやりたいことを考えて」
あの言葉をきっかけに、私は自分に問い直した。
そして、“引き寄せ”を信じて、今回は「絶対受かる」と決めて臨んだ。
結果は――こうして、採用。
「……東地先生に会いたいな」
報告したい。お礼も言いたい。
時計を見ると、十四時を少し過ぎたところだ。休憩時間かもしれない。
◆
電車を乗り継ぎ、私は駅前の寂れた商店街に立っていた。
人通りの少ないアーケードを抜け、記憶を頼りに歩く。
商店街の外れ――懐かしい木造の建物が見えた。
(やっぱり、ここだ……)
胸が少し高鳴る。
入口に掲げられた「東地クリニック」の文字を確かめ、
服の皺を軽く払って深呼吸した。
緊張を抱えたままドアを押す。
古い蝶番が、きぃ、と鳴った。
「こんにちは」
声をかける。けれど返事はない。
診療時間外らしく、院内は静まり返っている。
時計の秒針の音が、やけに大きい。
「あれ……いないのかな」
肩をすくめかけた、そのときだった。
――ガランガランッ!
金属の落ちる大きな音。続けて、慌てた声。
「うわっ……あちち!」
私は思わず足を止め、目を丸くする。
「えっ、何? どうしたの!?」
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