短編集「詩書きの犯行」
篠原いえで
後書き-詩書きの犯行
俺は詩人だ。詩人であり、語り手であり、悪人だ。俺は人を殺す。そのために書いている。そのために生きている。
自分を殺していきることを自殺に喩えるように、君を小説で亡き人にすることを、殺人と捉える。
俺の詩は常に醜悪だ。誰も救わない。救う気もない。嫌なことがあったのなら、逃げればいいと言う。辛いことがあったのなら、忘れればいいと言う。そして死にたいのなら、死ねばいいと言う。俺の詩は、救われる気のない人間を後押しするだけの、最低で最悪な、つまらないほど笑える話だ。
君が殺される話を書いた。君のような人間が死んでも、世界にはなんの影響もないことを笑った。
君が自殺する話を書いた。君みたいな辛く苦しいだけの人生に、価値などないと謳った。
君が誰かのための犠牲になる話を書いた。そうまでして獲られるものなど、忘れ去られるのをまつだけの空虚さだと嘆いた。
俺は語り手だ。語り手であり、詩人であり、悪人だ。俺は人を殺す。そのために話している。そのために生きている。
小説を書くことを殺人と喩えるように、苦しんでいる君に世界の優しさを解き、甘美な言葉を吐くことを、拷問と捉える。
俺の言葉は常に薄っぺらだ。言葉に重みがない。重みを持たせる気もない。嫌なことがあったのなら、逃げようと手を取る。辛いことがあったのなら、忘れようと酒を継ぐ。そして死にたいのなら、一緒に死のうと毒を用意する。俺の言葉は、救われる気のない人間を騙すだけの、最低で最悪な、笑えるほどつまらない話だ。
君が殺される話を語った。君のような人間が死んでも、世界は皆自分のことで忙しく、気にかける余裕などないのだと泣いた。
君が自殺する話を語った。君みたいな辛く苦しいだけの人生に、価値を見出だせる人間はいないのだと憤慨した。
君が誰かのための犠牲になる話を騙った。そうまでしないと獲られないものに、誰も興味を持たない現実を嘆いた。
俺は悪人だ。悪人であり、詩人であり、語り手だ。俺は人を殺す。そのために犯している。そのために生きてる。
人を救うことを拷問と喩えるように、自分を殺して世界にいきる君のことを、自殺しているみたいだと捉える。
俺の犯行は常に中途半端だ。誰かを殺すこともできない。生かすこともない。中途半端に傷つけるだけの、紛い物だ。嫌なことがあったと聞いた。辛いことがあったと聞いた。死にたいと聞いた。俺は何をしてあげられた?何ができた?話を聞いてあげた?肯定した?違う。そんなものは君の本当の救いになっていない。誰の救いにもなっていない。ただのお前の自己満足だ。俺の犯行は、救われる気のない人間を救えないのは仕方がないと偽善者ぶった、最低で最悪な、笑えないほどつまらない話だ。
君を殺した。君のような人間が死にたいと言う世界で、君に生きていてほしくなかった。
君を自殺させた。君の辛く苦しい人生を、隣ですらない位置で見たくはなかった。
君に、俺のために死んでほしかった。そうまでして獲られるものなどないという現実を嘆いていたかった。
ただ知ってほしいのだ。世界にお前の味方なんてだれもいないということに。世界の誰も自分のことに精一杯で、お前に興味なんてないということに。知ってほしかったのだ。そして、お前は俺だ。救われないとわかっていて死にたいと言うお前と、救えないとわかっていて殺したいと言う俺、何が違う。俺だ。俺だけだ。君の死に、意味を持たせることができるのは。詩人であり語り手であり悪人な、俺だけだ。俺だけだったんだ。
これは俺と君の全ての話を綺麗事で終わらせるための、後書きだ。
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