第13話 世界は、一人分の時間では足りなかった
最初に異変を知ったのは、ニュース速報だった。
『都心部で大規模事故発生。同一時間帯に、同一場所で、“三度”事故が起きています』
ユズルは、画面を見つめた。
「……三度?」
あり得ない。
時間は、一本しか流れない。
はずだった。
事故現場は、交差点。
トラックの横転。
歩行者の巻き込み。
信号機の故障。
それが、
同じ映像で、三回流れる。
だが、細部が違う。
倒れ方。
逃げる人。
死者の人数。
(誰かが……)
(戻ってる)
ユズルは、即座にリープした。
事故の五分前。
いつもの感覚。
……だが。
(重い)
時間が、
引っかかる。
交差点に着くと、
違和感は確信に変わった。
空気が、歪んでいる。
何度も使い回された時間特有の、
薄さ。
見覚えのある感覚。
だが、
自分だけのものじゃない。
信号が、青に変わる。
トラックが、突っ込む。
――一度目。
ユズルは、介入しなかった。
結果を、見るため。
衝突。
悲鳴。
死者、二名。
(戻る)
ユズルは、リープする。
二度目。
トラックの進入角度が、違う。
誰かが、
先に触っている。
(……上書きされてる)
ユズルは、焦る。
自分の修正が、
世界に反映されない。
三度目。
交差点の中央に、
知らない男が立っていた。
年齢不詳。
服装、ラフ。
だが、
目だけが異常に冷たい。
男は、ユズルを見る。
笑った。
「……お前も、戻れるのか」
背筋が、凍る。
「誰だ」
「名乗るほどじゃない」
男は、肩をすくめる。
「ただの――失敗作だ」
時間が、軋む。
四度目が、始まる。
だが、今度は――
勝手に戻った。
(!?)
ユズルは、制御を失う。
自分の意志じゃない。
街が、揺れる。
映像が、ぶれる。
時間が、
巻き戻りと再生を同時にやっている。
人々が、
同じ動きを繰り返す。
泣いて、
逃げて、
死んで。
男が言う。
「俺は、“確定”させられない」
「何度戻っても、成功が存在しない」
ユズルは、息を荒くする。
「……だから?」
「だから、壊す」
トラックが、
あり得ない軌道で跳ねた。
時間の継ぎ目が、
破裂する。
五度目の事故。
死者、増加。
(止めないと)
だが、
戻れない。
戻る起点が、
消えている。
その瞬間、
遠くでサイレンが鳴った。
アシメだ。
だが、
彼女には見えない。
時間の裂け目は。
男は、最後に言った。
「一人で正義やってるから、こうなる」
「世界は、共有データだ」
次の瞬間、
すべてが確定した。
交差点は、
瓦礫と血で埋まる。
戻れない。
修正できない。
ユズルは、膝をついた。
初めての、
完全失敗。
自分の正義では、
救えなかった。
遠くで、
アシメが誰かに叫んでいる。
だが、
ユズルの耳には届かない。
頭の中に、
フードの男の声が響く。
『必ず、壊れる』
ユズルは、理解した。
時間は、
独占できない。
能力者は、
増えている。
そして――。
正義は、
もう、個人でやれる仕事じゃない。
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