風速計の沈黙

ねこ大名

第1話 氷の視線、熱い大気

 2026年1月12日。ネオ・シブヤの空は、暴力的なまでの快晴だった。

 地上150メートルの管制室「アイ・オブ・ザ・ストーム」。ハルは、無機質なホログラムの等圧線を指先で弄んでいた。隣では、彼女が「姉さん」と呼んで慕い、そして激しく憎んでいる上司のシズクが、優雅に脚を組んでモニターを眺めている。

「ハル、セクター3に追い風を3メートル。選手のスピードが落ちているわ」

 シズクの声は、冬の夜の海のように冷たく、そして甘い。ハルは、自分でも驚くほど硬い声で応じた。

「……了解。ですが姉さん、さっきの休憩中、セクター5のアスリートと親しげに話していましたね。あいつ、先月の記録会で最下位だった無能ですよ」

 シズクがふっと、口角を上げた。その余裕が、ハルの胸の奥で燻る嫉妬の炎に油を注ぐ。

「あら、仕事の話よ。嫉妬? 醜いわね。あなたはただ、完璧な『審判』でいればいいの。私だけの、忠実なレフェリーで」

 シズクの指がハルの頬をかすめる。それは寵愛の証であり、同時に「お前は私の所有物だ」という刻印でもあった。ハルはレズビアンであることを自覚したあの日から、この「姉」の影に閉じ込められ、感情を気象データのように数値化して殺してきた。

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