5-17

ヴィルヘルムの申し出に表情を変えずジェラルドは耳を動かした。先を続けろと言わんばかりに、彼の腰の辺りから生えている尻尾が大きく揺れる。

少し迷いながらヴィルヘルムは続けた。


「いろいろ説明を省くけど、君の城のどこかにナズナの記憶の欠片があるんだ。

 それを探すためにその…ジェラルドにも協力して欲しい」


腕組みをしたままジェラルドは目を伏せる。そしてすっと目が開き、ヴィルヘルムとはまた違った青い瞳で射竦めた。


「私の城に来るのは構わない。ビスマルク公の令嬢を我が城へ招待する旨は伝えておいてやろう」


むしろ父がどのような口実で彼女を招こうか悩んでいたので、好都合といえば好都合だ。だが、ジェラルドが知りたいのはそこではない。


「しかし、私に協力を求めるのであれば、その省いた部分を教えろ。そうでなければ私はそれ以上の協力はしない」


「ええ…」


参ったなあ、とぼやきながらヴィルヘルムは頭を掻く。ナズナがどのような事情で旅をしているのかをよく知らないパウラも、ジェラルドと同意見なのか黙ってヴィルヘルムの方を見ている。

協力者は多い方がいいが、従妹の事情を当人に黙って話すのはどうだろう。さすがのヴィルヘルムも少し悩む。


「話したいのは山々だけど、それは本人から直接聞いてくれるかな?」


そう言っている途中で彼にしては中々な名案が思い浮かんだ。


「その省いた部分をナズナから聞くために、君が非番の時に招待すればいいんだよ!」


 物は言い様である。もしこの場にソルーシュがいたら満面の笑みを浮かべているだろう。普通なら何だそれはと反論するジェラルドだが、彼に対する呆れよりもナズナへの興味が勝った。


「なるほど。ではそうさせてもらおう。私の非番の日は…確か二日後だ。

 精々それまであの令嬢の人見知りを直しておくんだな」


「あ、まさかナズナ一人で行かせると思ってる?当然、従兄である僕も行くからね」


にっこりと笑いながらヴィルヘルムは釘を刺してきた。別にジェラルドは彼の父や兄、はたまた某商人と違い下心は無い。否、全く無いと言えば嘘になるが、純粋な興味に過ぎない。

 だが、彼がナズナについてくる理由をジェラルドは何となく察した。おそらくあの噂を耳にしたのだろう。

本当に過保護な男だ。隣にいる竜人族の後輩の少女に憐みを覚えるくらいに。


はあ、と溜息を吐いてジェラルドはぐるりと向きを変えて歩き出した。


「好きにしろ。明日中にビスマルク公宛てに、私的な晩餐会の招待状を届けてやる」

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