2-7

踊った後で喉が渇いているだろうと、ソルーシュはナズナにジュースを持ってきて差し出す。礼を言い、ナズナは少しずつ口を付けて喉を潤した。

ジェラルドも自分の姉妹達を牽制するかのようにナズナのテーブルに同席し、自分で紅茶を注いで飲み干した。彼らが一息ついた瞬間を見計らって、一人の青年が訪れる。

その青年の姿を見て、ソルーシュはあっと顔を上げた。


 舞踏会が始まる前に目を止めた、あの異国の衣装を纏った青年だった。


彼は背筋を真っ直ぐ伸ばし、眉間に皺を寄せてじっとナズナの方を見ている。否、この場合睨み付けていると言った方が正しいかもしれない。青年はソルーシュとジェラルドの存在を無視してナズナの前に立った。

そして長い袖を捲り上げて自身の腕を露出した。彼の両腕を目の当たりにした瞬間、ナズナ達は目を丸くして驚く。

 彼の二の腕から下は黒鋼色に光る機械の腕だった。右手首ががこんと音を立てて曲がり、そこから銃口が出現する。それの矛先はナズナの眉間をしっかりと捉えていた。


「ナズナ=フォン=ビスマルク…オマエを我が帝国へ連れて行く!」


「え…?!」


突然のことに反応出来ないナズナに代わって、彼女の中から神威が現れ青年を威嚇するようにその美しい翼を広げた。


『貴方は…蒼湖ツァンフー帝国の者ですね』


「?知っているのか、神威?」


一目で青年の出身地を言い当てた神威にソルーシュが食いつく。


 蒼湖ツァンフー帝国。


 東大陸の半分を支配する水妖スイヨウ族の国だ。商人をしているソルーシュもその帝国の噂を耳にしたことはあるものの、実際に行ったことはない。

しかしながら今はそれを知る時ではない。それは後の話だ。今はこの青年からナズナを守らなければ。

様子がおかしいことに気づいた周りの者達が青年の機械の両腕とその銃口を見て騒ぎ出す。貴婦人が悲鳴を上げ、警備に当たっている騎士達を呼び寄せる。

その中にはヴィルヘルムとパウラの姿もあった。


「ナズナ!」


 従妹の前に立つ不審な青年を捕捉すると、ヴィルヘルムは剣を鞘から抜いて駆け寄ろうとした。しかしそれより先に青年が反応して左手をヴィルヘルムの方に向けた。

右手首と同じように手首が曲がり、銃口が現れて発砲する。一発ではなく、結構な数だ。おまけに範囲も広く、飛んできた弾丸が貴族達に当たらないように防ぐのに骨を折る。


「邪魔をするな」


青年は冷たく言い放つと、再びナズナに意識を向けた。

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