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どうにも私という生き物は影響を受けやすい生き物であるらしい。其れはつまり、自分に対する催眠も相応な効果があると言っても差し支えがないのである。

例えば週一で老舗純喫茶の『ブラン』珈琲を飲まなければ発狂する、だとか、不可思議な経験をした余韻に、一時間でも二時間でも浸りたがる事が言えるかも知れない。

そうして今、珈琲の切れた体は悲鳴を上げ、不可思議な小説の余韻に浸り、不思議の国のアリスに発狂仕掛けるというキチガイを起こそうとしていた。

卓上を見てもアリス、白うさぎ、ユニコーン、女王、チェシャ猫、トランプ兵。鞄やポーチを漁っても似たような光景が延々と続くばかりである。帽子屋だけが居ない。

そうしてこのまま不思議の国に閉じ込められる様な、なんとも末恐ろしい気持ちになりながら、私は部屋を出た。

人の気配がない。廊下を歩いても、リビングダイニングを確認しても、洗面所やトイレを確認しても、舞い戻って隣の部屋をノックしても、私以外の人間の姿がいない。

この部屋、マンションの一室には、私以外に同居人が居座っているはずなのだが、その姿が何処にもいない。

変な夢を見ている気がした。だから大人しく自分の部屋に戻り、そのまま丸まって眠ろうとした

時である。足元から『にゃあ』という鳴き声がした。誰が聞いても十中八九、猫と定義する様な鳴き声であった。

私はその声の主のほうを向いた。足元には虎の様な、決して小柄とは言えない猫が、ぬっと、こちらを見詰めていた。

「気でも触れたみたい」

――お前が何処かおかしくて、正常なのは当たり前のことだろ?

私の答えに呼応する様に、その巨大な脳裏で話し掛けてくる。あぁ、やはり、気でも触れた様だった。

「チェシャ猫が正常であるはずないもの」


「不可思議な話が読みたいな」

朝目覚めた同居人はそんな事をボヤいた。彼奴は過酷な現実に辟易する事があるから、其から逃れる為にたまに荒唐無稽な話を求める事がある。

「ドグラ・マグラ」

「うん。悪くないね。不思議の国のアリスみたいで」

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