最強の殺し屋を殺す殺し屋を探す殺し屋を追う殺し屋

関川 二尋

1st A persistent pursuer and a spectacular escape~しつこい追跡者と派手な逃避行~

「あーあ、またバレちゃったね。あたし結構気に入ってたのに」

「まったくだ。キラも気に入ってた」


 オレと霧崎は轟々と炎を上げて燃える平屋を眺めていた。街道沿いに建つ、何の変哲もない古びた一軒家。


「気づくの遅かったらヤバかったね」

「ああ。ク・リーリンと一緒にいる二人組、見覚えは?」

「ピンクの髪の女は知ってる。『来栖キス』だったかな。昔、ニコマで一緒に働いてた。まさか同業とは思わなかったけど」

「そうか。もう一人の青い髪は売り出し中の『蔵井クライ』だろう。殺しを楽しむサイコパスだ」


 まったくどこから嗅ぎつけたのか分からないが、またしてもオレの隠れ家が急襲されたのだ。まぁ住環境的にはいろいろと不便だったが、そこそこ自然に囲まれた良い家だった。

 さすがはク・リーリンというべきだろうか。奴が凄腕の殺し屋だったという噂はもちろん知っていた。だがどうやらまだまだ現役らしい。二人の若い殺し屋を指揮しての突入と、証拠隠滅のための放火。双眼鏡越しに一部始終を見させてもらったが、実に無駄なく鮮やかな手際だった。


「敵の戦力も分かった、そろそろ移動するぞ」

「今度はどこに行くの?」

「群馬だ。そこにカノンという殺し屋が使っていたセーフハウスがある」


 オレは霧崎の頭にヘルメットをかぶせてコツンとひと押し。オレ自身はゴーグルをはめ直し、サイドカーに積んだプラスチックの大型ケージをもう一度確認する。


「ちょっと揺れるけど、しばらくガマンな」


 ハーレーのアクセルを開けるとゴロゴロと雷鳴のようなエンジン音。タイヤが田舎の砂利道を噛み、それから一気にトップスピードへ。轟音と砂煙を引きずってしまうが、市内までの30分、スピードを緩めるわけにはいかない。奴ら、装備も一流でそろえていやがる。こちらの装備ではいずれ追い付かれるのは明白だ。


   🔫


 市内に入るとスピードを緩めて法定速度に切り替えた。時刻はすでに終電過ぎの深夜。交通量もまばら、歩く人もまばらだ。ただ駅前の繁華街だけはネオン電飾が煌々と多彩な色を振りまいている。


「この先にニコマの支店があるみたい」

 後部席でオレにしがみつく霧崎がスマホ片手に伝えてくる。


「しまったな……次の目的地、その真ん前だぜ」


 霧崎が勤めていたニコニコマート、通称『ニコマ』は全国展開するスーパーだ。その経営のトップは大陸マフィアの首領『ク・リーリン』。スーパーの業務を隠れ蓑に後ろ暗い仕事を多数扱い、さらに店員の中に少なくとも一人、闇の仕事をする人間が紛れ込んでいる。


「はぁ。なかなか静かにはいかないモノね」

「どうやらそのようだな。ニコマの前にマンションがあるんだ。そこに車が停めてある。バイクから乗り換える予定だったんだ」


「だったら、あたしここで降りるわ。ニコマの駐車場に迎えに来てよ」

「一人で大丈夫か?」

「誰に向かって聞いてんのよ?」

「そうだったな、キリサキジャッコ」

「やめてよ、その名前は捨てたんだから……でも、ちょっと戻るのも悪くないわね」


 バイクを沿道に寄せて停車する。ニコマまではわずか20メートルほどの距離。見た感じでは、客もおらず、駐車場もがらんとしている。霧崎は踵の低いパンプスをコツコツと鳴らし、自然と店に歩いてゆく。いかにも普段着の服装、手にしたエコバックから、夜食を買いに来た主婦、そんな風に見えるだろうか。


「まぁあのバックに銃器が満載とは思わないよな」


 まぁこれからあの店がどうなるかはなんとなく予想がつく。それだけに巻き込まれる人間には同情するほかない。


 オレは再びバイクを発進させ、目的の車があるマンションへと向かった。


   🔫 


 地下の駐車場から車を出すと、通りの向かいがまさに『ニコマ』だ。

 と、従業員と思しきエプロン姿の中年女性が悲鳴を上げながら店から飛び出してきた。続いてマシンガンを乱射する銃声。フラッシュのような光が店内で瞬いている。この音からして、霧崎の銃だ。戦闘しているのだろうか?


「急いだほうがいいな」


 左右を確認するまでもなく、車は走っていない。大通りを真っすぐ横切る形で車を進めると、いきなりニコマの窓ガラスが一斉に外向きに砕け散った。一瞬遅れて爆発音が響き、店内に合った商品が、駐車場いっぱいに吐き出された。

 ガスだろうか? すでに店内のあちこちで炎が上がっているのが見えた。


「ったくやり過ぎじゃねぇか?」


 それはともかくだ。急いで車を駐車場に滑り込ませると、店の中から霧崎が悠然と姿を現した。その左手にはウージーのマシンガン、右手には湾曲したナイフ。ナイフからは血が滴っている。


「ケガはないか?」

「へーき。いたのはナイフ使いだったから楽勝」


 返り血が点々とついていたが、にっこりとした笑顔はなかなか魅力的だといまさら気づいた。その笑顔の前なら、この店の惨状も仕方ないなと思えてくる。


「それより、まさか次はコレなの?」

 霧崎が聞いてきたのはこの車の事だろう。

 まぁ型は古いし、マット塗装のブラックではなおさら古そうに見える。


「まぁな。見た目は古く見えるだろうが、中身は別物だ」

「ダッジ・チャレンジャー」

「知ってるのか?」

「まぁね、まさにマッスルカーって感じ、ごつくて最高!」


 と、バックミラーに小さな動きがあった。

 エプロン姿で逃げ出していた店員、彼女の姿がちらりと見えた。てっきりただの一般人、店員かと思って注意をそらしていた。オレの眼を欺くほど巧妙に擬態していたのだ。しかもどこから持ち出してきたのやら、御大層にもバズーカ砲を担いでいる。車に乗ったこの状態……それは一瞬だが致命的、決定的に遅れてしまった。


「まずいっ! 霧崎!」


   🔫


 が、叫び出す声も途中で途絶えた。

 霧崎の体も表情もピタリと止まっていた。

 ただし、右手に持っていたナイフを投擲した姿で。


 バックミラーに目を戻すと、その小さな視界に喉にナイフを刺された殺し屋の姿が見えた。その体が血を吹き出しながらゆっくりと倒れた。


「なんかさ、これまで各店舗に殺し屋は一人と思ってたんだけど」

「オレもそう思ってた」

「考えてみれば、あたしの勤めてたとこにも二人いたってことなんだよね」

「ピンクの髪の女の子か」

「そ。なにかとむかつく子だったんだけど、ホントうまく正体を隠してたんだよね。あ、ちょっと待ってて。ナイフ取ってくるから!」


 ナイフを取り戻した霧崎を乗せて、オレは騒然とする雑踏から静かに車を出した。反対車線を救急車やら消防車がサイレンを鳴らして走り去ってゆく。ずいぶんと大事になってしまった。カタギではないが死体も転がっている。


「ま、監視カメラも全部吹き飛んだから安心してよ」

「さすがだな。キミを味方にできてホントよかったよ」

「それを言うならあたしも。一生の宝を手に入れたんだもの」


 それから二人でちらりと後部座席に目をやる。

 ク・リーリンが血眼になって奪い返しに来ているブツがそこにある。


 だがどんな犠牲を払ってでも、オレはこのブツを守りたいのだ。

 その思いはきっと霧崎も同じだろう。

 それに元殺し屋のオレたち二人、血塗られた道を歩くのには慣れている。


「ま、さっさとずらかろうぜ」


 市内を抜けたところでアクセルを踏み込むと、ダッジはご機嫌なエンジン音を響かせ、街灯もまばらな田舎道を走り抜けていった。


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