情報が不足し過ぎている。モール内の小さな花屋で俺は途方に暮れていた。だってアウェー過ぎるだろ。花屋に男子高校生って。店員さんに聞いても、お連れさんにですかと返されて一から説明しないといけなくなる。それはそれで辛い。

 定番は百合や菊だろうが仲三河は仏花は駄目だと言っていたし篠原のイメージにそぐわない。

 よく見ると花のそばに手作りのPOPが添えられていて花言葉や用途が書いてある。これを頼りに俺は店内を彷徨う。

 あまりカラフル過ぎるのも良くないし、毒や棘があるのもなあと逐一POPをチェックして回る。

 これだ。俺の目に止まった白い花。花言葉は「魅惑、有能、わがままな美人」この花言葉なんて篠原そのものじゃないか。花の名前は「デンファレ」このデンファレをベースに花束を作って貰おう。おっと仲三河に予算を聞いていなかった。

「仲三河、この花なんてどうだ値段も手ごろだし綺麗だ」

「あのねえ……値段よりも考える事が……でも、ええこれにしましょう。白いデンファレ……合格。こんな花選ばれたら私、口出せないよ……」

 仲三河は目を伏せながらも俺の選んだ花を中心に店員さんに小さな花束を作ってもらった。高校生が出せる金額なんてささやかなものだが店員さんは工夫して比較的安価な花を組み合わせてボリュームを出し、これはガーベラの花かな赤やオレンジの色を加えてより白い花が際立つ花束が完成した。

 仲三河が花束を受け取ると俺の下へ歩み寄る。小さな花束と仲三河の落ち着いたブルー基調のスカートとニットがセットアップの様に馴染んでいた。

「こら荷物を持ちなさいよ」

 せっかく似合っていたのに花束ば俺の手の中へ、

「恥ずかしくないかこれ」

 同世代の異性と花束を持った俺。一見して花束をプレゼントするみたいにしか見えないじゃないか。

「気にしたら負け。それにまた外を歩くならボレロを羽織らないと日焼けするし……由木バッグも持ってて」

 そういえばモールの中では仲三河はノースリーブだった。普段なら食い入る様に見ていたのに。今になって気が付くなんて。強がっていても俺も立ち直ってはいないんだな。




 来た道を戻って俺達は目的地である加茂浦公園まで歩く。やはり公園は学校、塾から同じくらい離れている。学校からは信号が少ないので10分塾からは15分といったところか。

「由木がいて助かったよ」

「俺も仲三河がいて助かった。やっぱり一人だと、な」

 二人とも篠原が死んでいた場所に向かう事に抵抗感を感じていた。お互いがいなかったら回れ右して帰っていたかもしれない。

 暫くして加茂浦公園に到着する。学校と塾のちょうど中間にある市民の憩いの場。市役所や図書館がすぐ近くにあって今くらいの時間なら小さな子供達が走り回っているはずの場所だ。

 ただ今は篠原の遺体が発見されたためか、公園内には誰もいなかった。

「どこなんだろう」

「さあ、歩いていたら見つかると思うけど……」

 俺達の心配をよそに遺体の発見場所はすぐ見つかった。公園に置かれたベンチの側、既に先客達が様々な花を捧げていた。ボッチなんて言っていたがそんな事はないじゃないか。

「こんなところで……芽衣が」

 仲三河が肩を落とす。確かに公園のベンチからほど近く、人目も多いだろう。自殺するのに相応しい場所じゃない。もっとも相応しい場所なんて存在するのかと言えば疑問だが。

「はら花。親友の仲三河が献花したほうが喜ぶだろ」

 俺が花束を渡そうと仲三河に近づくと、

「駄目。芽衣の一番好きだった人がお花はあげないと」

 と、花束を受け取らない。

「あのなあ、俺は確かに篠原に告白したことになっているが回答はまだだぞ。だから一友人で一ファンだ」

「えっ……そう、なの」

「ああ、私が欲しいならテストで百番以内になりなさいってさ」

「芽衣、あなたって人は……呆れた……それであれだけイチャイチャしてたわけ、由木が可哀想過ぎる。う〜んでも一番好きな人なのは間違いないよ。他の人の告白はその場で断ってたし、じゃあ一緒に」

「そう言う事なら」 

 俺達は揃って一礼して木の下に花束を置く。しかし篠原ありがとな。俺は仲三河の表情がコロコロと変わっていったのを見て安堵した。

「でも由木。正式につきあって無かったのに白いデンファレを選ぶなんて重すぎない」

「重い、なんの事だ」

「花言葉」

「それは花屋のポップで見たぞ魅惑と有能だろ」

 俺はわがままな美人の花言葉については伏せた。

「デンファレの花言葉はね。でも白いデンファレの花言葉は「純粋な愛、誘惑に負けない」だよ。私、由木がこの花選んだ時もの凄く感動したんだけど……もしかして感動して損した」

「それはがっかりさせて、すまん。でもこの花が枯れるまでプラトニックラブを貫くよ」

「この暑さじゃ明日か明後日には枯れるって……最悪」

 あ、笑えた。二人とも失笑、苦笑かもしれないけど。転んでも立ち上がれば良いとは言うがこんなに早く立ち上がれるなんて。俺は今まで背負っていた重荷が少し軽くなった気がした。

 

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