なまぐさシスターが相談承ります ~首忘れのデュラハン~

廿楽 亜久

第1話 私の首を探して

「頼もう!!」


 教会の扉を叩いているとは思えない、威勢のいい声が、教会に響き渡る。


 すでに、昼時だというのに、礼拝堂に人の気配はない。

 いるのは、掲げられた十字架の前に膝をついている、灰色の少女だけ。


「失礼。ここが、種族問わず相談を受けるという教会に相違ないか?」


 威勢よく入ってきた騎士は、その少女へ問いかけながら、教会に足を踏み入れた。


 最近、噂になっている、どのような種族、どのような宗教観であろうと、相談を受け入れるという教会。

 あまりにも、雑多であり、嘘か真かもわからなかったが、この村の寂れた様子からしても、事実なのかもしれない。


 そのような奇特なことをするのは、この教会に住む彼女たちしかいないということなのだろう。


「えぇ、相違ございません」


 祈りを捧げていた少女は、ゆっくりと立ち上がり、その騎士へ振り返った。


「ようこそ! シェルトグラム教会へ」


 寂れた教会とは思えないほど、元気な声が、教会に響くのだった。


「どうされました? お祈りですか? ご相談ですか? それとも、懺悔?」


 騎士に詰め寄るように、矢継ぎ早に質問する彼女に、騎士は動揺したように、後退る。

 少女の勢いに驚いたのもあるが、問題はその容姿だ。


「…………も、もしや、堕天使か?」


 美しかったであろう、降り注ぐ光のような金髪は、すっかり焼かれたように輝きを失い、髪に隠れた片目は、まるで虚のようだ。

 服だけは、白く美しいワンピースを纏っているが、その灰色に焼けたような瞳は、まさに文献に残る堕天使の容姿だ。


「はい? 私は天使にございますよ?」


 しかし、心底、不思議そうな様子で、首を傾げる少女に、騎士も動揺した様子で、肩を揺らす。


「天使のエレ・フットにございます。主の導きにより、このシェルトグラム教会にて、ハイドランジア様のお世話をさせて頂いております」


 騎士の動揺している様子など気にしていないのか、エレ・フットは、優雅な仕草で、首を垂れた。


「あ、あぁ、そうなのか」

「して、騎士様におかれましては、どのようなご用件にて、当教会に?」


 文献では、堕天使の存在は、会話など成り立たない傍若無人な存在とされていたはずだが、本物は案外話ができるらしい。


 騎士も、少し安心したように、のけ反っていた体を真っ直ぐに戻すと、話を続けた。


「相談したいことがあってな」

「ご相談ですか! 内容は?」

「ま、待て待て。この教会には、貴様、ひとりなのか? 先程、ハイドランジアという」

「様」

「は、ハイドランジア様がいるとか言ってたが」


 呼び捨てにした瞬間に、背筋が震えるような圧を感じ、すぐに訂正すれば、エレ・フットもすぐに笑顔に戻る。


 先程、堕天使であっても、話が通じると思ったが、今のような、逆鱗があるのだろう。

 気をつけなければ、天使族特有の高火力の魔法が、自分に向かって飛んでくると考えた方がいい。


 文献を書いた先人たちは、堕天使の注意する部分について書いた結果、誇張することになってしまったのだろう。


「ハイドランジア様は、まだお休みしております」

「今は昼時だが、夜行性の魔族か何かなのか?」

「いいえ。神の恩寵を秘めた人間にございます」

「そう、か」


 相談事を、この堕天使に頼んでいいものかと、騎士が悩んでいると、奥で人影が動いた。


「なぁに? 騒がしいけど、お客さん?」


 薄着で、眠そうに目をこすりながら出てきた少女。


「ご主人様! おはようございます! ただいま、こちらの騎士様から、ご相談を承っていたところです」


 エレ・フットの様子から、彼女がハイドランジアという、堕天使の主人のようだ。


 ハイドランジアは、めんどくさそうな視線を騎士の方へ向けると、ゆっくりと騎士の頭の辺りに視線をやる。


「相談って、その騎士、首がないけど、生きてるの?」


 そう、首のない騎士に、訝し気に問いかけた。


「この方は、デュラハンにございます。ですよね? え? 違う? じゃあ、ゴーストの類? 召しましょうか?」

「デュラハンです。ご心配なく」


 聞いたわりには、こちらの意見など聞く気のなさそうなエレ・フットに、しっかりとデュラハンであることを伝えれば、「ですよね!」と大きく頷かれた。


「実は、私ではどうにもならないことがありまして、相談に参ったのです」

「そう。なら、私以外にした方がいいわよ。私には、何の力もないから」


 姿勢を正して、この教会の主であろうハイドランジアへ、相談事を口にしようとすれば、最初から話すら聞く気がないと、話を打ち切られる。


「し、しかし!」

「相談なんでしょ? だったら、エレ・フットとか、もうひとりに――って、エレ・フット?」


 いつの間にか姿を消していたエレ・フットに、ハイドランジアが周りを見渡せば、奥から走って戻ってきたエレ・フット。

 その手には、大きなストールと、温かいスープとパン。


「ご主人様! 昼とはいえ、そのような格好では、お体に障りますから、どうぞこちらを。それから、こちらも」

「なんで、パンまでこっちに持ってきたのよ……」

「食べますよね? 食欲がありませんか?」

「そうじゃなくて……」


 呆れたようにため息をつくハイドランジアは、一応客であるデュラハンの前でも、遠慮なく、スープとパンを口にし始めた。


「それで? こうなったら、一応、話くらいは聞くわよ」

「は、はぁ……感謝します」


 めんどくさい。という態度はありありと伝わってくるが、話は聞いてくれるならば、とデュラハンも、その相談を口にした。


「私の首を探してほしいのです」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る