棲(すみ)か:根絶やしの家
真千
第1話 序章
【プロローグ:四条大橋の檸檬】
鴨川河川敷を歩く。
最近の京都の冬は生ぬるい。肌を刺す、真っ白な鋭さがなくなっている。
夏の太陽は容赦がないくらいなのに。川面には四方からの風で菱形の波が揺れている。
天気はそこそこ良いのに、鴨川は黒い。
はしゃぐ学生がこの冷たい川に落ちたら、どんな声を聞かせてくれるのか。
そんな光景を網膜にを描き、妄想しながら、歩いていく。
紹介するほどでもないだろう。
観光客で溢れる喧騒の中、河川敷から四条大橋を見上げる。
南からの日差しで橋の上の人々が黒々と蠢いているように見える。
私は心に梶井基次郎の「檸檬」を抱いている。
私なら檸檬爆弾をあの四条大橋の中央に設置するだろう。
それを爆発させた瞬間、青空から降ってくるのは光ではない。
降り注ぐものは人々の手足の雨。それでも彼らは気が付かないのだ。
私は少し笑いながら、その肉の雨を避けもせず歩き出す。
京都人は嫌われているそうだ。おかしな話だ。
その京都に住んでいるのだ。いや棲みついているのだ。
「京都に棲み続ける覚悟はあるか」と自らに問いながら、目的地である「あの土地」へ向かうのだ。
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【第一章:網膜の澱、蘇る家】
神泉苑六角、実在の土地なので詳細を書くことはできない。
現在更地になっているその場所に、かつて古い京町家がそこにあった。
未だ更地だと言うこと。立地的には一等地といっても良い場所だ。
そこが未だ更地なのだ。
わかるだろう、家が立たないのだ。
更地の前に立つ。土地に足を踏み入れた瞬間、視界にグリッチ(ノイズ)が走る。
過去の記憶が高速でレンダリングされ、空間にあの禍々しい京町家がホログラムとして立ち上がる。実体はないのに、網膜に焼き付くほど鮮明な、あの時のままの姿で。
本当に悲しかった。おばあちゃんの家は本当に怖かった。
上り框のある玄関を入ると、客間がある。暗い鰻の寝床と言われた長い廊下。黒い階段、中庭の先にある離れが蘇る。
居間を抜けると仏間がある。遺影が睨みをきかせている。私は目を合わせない。
離れの扉に手をかける。
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