おまけ 再会
地下のバー。蝶々の模型とエメラルドグリーンの照明が美しく、落ち着きを与えてくれる空間だ。で、目の前で惚気に惚気を重ねる男は、バラのような赤いジュエリーを見に纏いこの幻想的な空間に似合う華やかさを放つ。
「聞いて、颯太〜えーもうまじでカタリナが可愛くってさああ!え俺の婚約者の可愛いところ七十連いく?」
「お前酔いすぎなまじで」
ちなみに3時間くらい惚気しか聞いてない。いやまあ、楽しいしいいけど。
シラフの時延々とここで話した話掘り返してやる予定
「…テキーラ百杯強飲んで酔ってないお客様がおかしいだけですよ」
急なマジレスされるこっちの気持ちにもなって欲しい。いや多少は酔ってるし俺だって。
「……スピリタスロックで」
「何この妖怪怖。違う了解いたしました」
うわめっちゃ引くやん?
「冗談ですよ。笑酔っ払い介護しなきゃなのに、なんで今からそんな強い酒飲むんですかあ」
「お客様って早死にしそう」
「やだなーせいぜい(テキーラ単体では)二十五杯ですよ飲んでて」
俺の飲む酒の量にマスターパニクってて草。酒に強すぎる俺のせいだけどな。
……それよりも、この酔ってる女装趣味野郎の後処理を俺は考えなくてはいけない。
「えへへ。あ、珠莉の好きなところ七十連でもいいよ?」
「なんで婚約者と殺した初恋の好きなところ両方いけるねんお前」
「……w」
ガーネットの指輪がカチンと音を立てる。
彼の真っ赤なリップが口の上で動く。涙目で妖艶な目線は男とわかっていても落ちる奴は山のようにいるだろう。
正直俺も親友じゃなきゃ怪しかった。ここまで機嫌良く酔ってるこいつ初めて見たもん。
「何わろてんねん」
「あっはは!」
ぎゅっと口角が上がって、ニヤニヤし始める。酒が回ってる影響で涙がポタポタ落ちて、机が濡れる。拭う指先のココナッツブラウンのネイルが水色の瞳と対比になる。
華美と色気という言葉が世界一似合う人間だろう。
「あーまじで面白い笑」
香水、コップを持つ仕草一つ一つが扇情的に感じる。仕事でハニトラしてるだけあるわ。
「はあ……珠莉とカタリナの共通点三十連でもいいよ」
うっしゃまだ聞いてないの来た!
「じゃあそれおねがい」
腰まである黒の長髪が靡く。赤でまとめられたコーディネートの鮮やかさを黒が引き立てる。
「えーっとねまずね、疲れてる時の紅茶入れてくれるところとー好きな花の色と、俺のこと好きってところと白いシュシュ愛用してる所と英語喋れる所とカブトムシ好きなところとヒル嫌いなところと」
「……狂愛が本当に似合う男だな」
マスターの独り言が聞こえる。正直完全同意。
「えー?なんて言いましたぁマスター純愛ですよ純愛ぃ」
汚泥の愛100%ってところか…?
エメラルドグリーンの照明がグラスを照らす。
色が反射、そして透過する様はとても綺麗だと思う。まあそれを脇役以下にする男が隣にいるわけだが。イケメンすぎて羨ましい。
「……マスター。生ハムください」
「ようっやくこの金髪から酒以外の注文が入った」
おおん喧嘩売ってんのか?常連だからって砕けすぎだろ笑。
「ほんっと無礼っすね〜〜。金払うんだからいいでしょ?」
「いった!ねえちょっと何すんだよ!」
圭吾が急に声を荒げる。
目線の先にはワンピースを着た女。
「急にどうしたお前」
「こいつが肘当ててきたあ」
涙声で腕を絡めてくる。まつ毛の影と涙の後がよく見えるようになった。
飲酒で一時的に上がった体温と、酒と香水の香りが一気に押し寄せてくる。
「べっ…別にわざとじゃないわ」
ん?あ……こいつ圭吾に見惚れてない? あ、見惚れてるわこれ引き剥がさなきゃ。
「えぇなんで急に立つのぉ?」
無自覚に、こいつがハニートラップで使うような声色で俺に語りかける。
酒が入っているのもあって耳に絡みついて背筋にゾクゾクした感覚が走る。こうすれば男は振り返って、自分に構うと本能的にわかっているんだろう。
「おまっ……っまじでさぁ……!」
相手に悪意ゼロで親友に興奮させられるとか、いくらなんでも惨めすぎる。
ふと、酔ってる相手がわかるほど、この酒による気の迷いが表に出てないか心配になった。
「コイツをしばくためだよ」
絡みつく腕を無理やり引き剥がす。うるうるした瞳が、見捨てるのか?と訴えてくる。
何にも理解していないようで、安心した。
「お客様。別に犯罪ではないので止めませんが、過保護では?」
「え、見ればわかるでしょ。危険って」
「……確かに」
という事で、首根っこを掴んで無理やり女を追い出しにいく。
「ねえマスター颯太が俺のこと捨てたぁ!」
後ろからそんな声が聞こえるが無視する。手元のなんで乱暴するの!という女の声も無視する。圭吾に見惚れたお前が悪い。
……こんなに酔ったのなんて何時ぶりだろうか。歳か?いや、まだ26だぞ。
もしかして俺、睡眠不足か……?明日有給取るか。
まあ、5分くらいで戻れる場所でいいよな。ぽいっとな。 戻ろう戻ろう。
「ただいまー……え」
「圭吾くん……?」
銀髪の女性が目に入った。
多分、死んだはずの珠莉だった。
十一歳で殺した初恋が、生きていた ネルネル寧々丸 @124064
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