何でも知っている猫
@AIokita
何でも知っている猫
あるところに何でも知っている魔法の猫がいました。この猫は魔法で喋ることもできました。飼い主の魔法使いはどこへ行ったのか判りませんが猫は一匹だけでした。
猫が街の通りを往く人に話しかけるので、街の人たちは誰かの大道芸かと思って驚いて集まってきました。
「やぁ、こんにちは。ご機嫌いかがかな。私は何でも知っている魔法の猫にございます」
集まった中の一人が「面白い、それなら俺の名前を当ててみなよ」と猫に言うと、猫はすぐに「ええ、あなたのお名前はジャンポール・パパンでございます」と答えました。
周りの人が男の顔を覗き込むと、男の人は驚いて「あ、当たってるよ」と身を引きました。
すると別の男が「よくできたサクラだな、お前らグルなんだろう? そんなのに騙されるかよ」と言いました。最初の男が「そんなんじゃねえよ!それならアンタ聞いてみなよ!」と言い返したので、「なら猫よ、今日の博打で当たりが出るのは何だか言ってみなよ」と聞きました。
猫はその問いに「ああ、申し遅れましたが、私は『先のこと』は申し上げられません」と断りました。
周りのみんなは「なぁんだ」といった感じで少しがっかりした空気になりました。
猫は続けて「私が申せるのはすでに起きた出来事か、いま起きている出来事に関してのみでございます。箱の中に猫がいるのか、いないのか。それは箱を開けるまでは判りませんゆえ……」とかしこまって言いました。
街中で面白半分に人々が猫に質問をするので噂が広まって、数日後には興味本位の学者も顔を出していました。
学者は自分の研究を猫に話すと「この理論は正しいといえるのかね」と尋ねました。猫が「はい、それは今もこの世界で起きていることそのものです」と答えたので、学者は大喜びして帰りました。
夜になると街の議員がこっそり猫を訪ねてきて「街のみんなはワシのやり方に満足しているのだろうか」と小声で尋ねました。猫が耳元で「不満に感じている人は多くはありませんよ」と小さく答えたので、議員はホッとして帰っていきました。
ある富豪が猫を訪ねて「私の病気を治せる医者はどこかにいるのだろうか」と聞きました。猫は「いいえ、今この世界にあなたの病を治せる者はおりません」と答えました。富豪はがっかりしましたが、家族の待つ家へと帰っていきました。
あるとき、街の浮浪者が「この世に神はいねえのか!」と叫びました。猫は「はい、この世に神はおりません」と答えました。周りの人たちはギョッとして猫を見ました。その場にいた宣教師は「神は天におわすのです」と落ち着いた様子で答えて去っていきました。
今度は男と喧嘩をする女が「記念日を忘れるなんでひどい!心ってものが無いの!?」と叫ぶと、猫は「はい、心というものはございません」と答えたので、またまた人々はギョッとしましたが聞こえないふりをしました。
街の警官が盗人を捕まえたあとに連れて歩きながら、「善悪ってものが無いのか」と盗人に訊ねると、猫が「はい、この世に善悪というものはございません」と答えたので、警官は不服そうな顔をして去っていきました。
人々は猫を少しずつ怖がるようになりました。
あるとき、猫に「主人の魔法使いはどうしたのか」と尋ねた人がいたのです。そのとき猫は「私の主人は私が何でも知っているのを気に病んで死んでしまいました」と答えたのです。それを聞いた人達はぞっとしてだんだんと猫に近づかなくなりました。
昔、猫を訪ねた学者は衰えた様子で再び猫を訪れると「君はこの先の理論も、そのずっと先の理論も、世界の真理を知っているのか」と聞きました。猫は「はい、存じております」と言いました。学者は以前のようには喜ばず何も言わずに、項垂れて去っていきました。
前に来た議員も再び猫を訪れると「街のみんなに不満はないと言っていたが…、そもそもみんなはワシの活動に興味があるのかね」と聞きました。猫は「いいえ、ございません。ゆえに不満も無いのです」と答えました。議員も肩を落として帰りました。
病に冒された富豪も猫を訪れると「私の病は治せるのかね」と聞き直しました。猫は「はい、治せます。しかし治せる医者はおりません」と答えました。
もう誰も猫に話しかけなくなった頃、一人が猫に「お前は悪魔か」と尋ねました。猫は「悪魔も天使も人の中より出たもの。私が悪魔に見えるのであれば、それは人が私をそう捉えているにすぎません」と笑いました。
猫は棒で殴られて死んでしまいました。
人々はこの猫は悪魔だったのだ、と語り、安心して暮らせる毎日を取り戻したということです。
何でも知っている猫 @AIokita
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