梅の花の香りが、最初から最後まで静かに寄り添ってくる物語でした。
言葉数は決して多くないのに、感情だけがゆっくりと積もっていく構成がとても印象的です。
鶯歌と蛇栖の関係は、恋でありながら所有や救済には向かわず、
「共に在る時間そのもの」を大切にする距離感で描かれていて、読んでいて胸が締め付けられました。
特に、香りや気配といった感覚描写が多用されることで、
触れられない想い・届かない時間がより鮮明に浮かび上がってくるように感じます。
老木としての終わりと、新芽としての始まり。
その循環の中で語られる恋はとても切なく、それでもどこか救いがありました。
派手な展開ではないからこそ、読み終えたあとに残る余韻が長く、
ふとした瞬間にまた思い出してしまう作品だと思います。
静かな恋、静かな喪失、そして静かな再生。
梅の花の香りだけが、今も心のどこかに残っています。