【御礼】少年陰陽師番外「馬上からの景色」【期間限定】

結城光流

馬上からの景色

 とある貴族の御曹司から、内々に依頼があった。

 父親が大事にしている仔馬を逃がしてしまったので、誰にも知られないうちに見つけ出して邸の厩に戻してくれ、と。



「それで、この二頭を?」

「ああ、探索に必要だと言って貸してもらった」


 鞍をのせた馬二頭の手綱を引いて安倍邸に戻ってきた成親に、昌親は頷くと、背後を顧みた。


「貸してもらったんだって」


 昌親の後ろからおずおずと顔を出した末弟の昌浩に、成親は目を細める。

 幼い弟が貴族の馬を見かけるたび大きな目をきらきらと輝かせていることに、成親はもちろん気づいていた。


「昌浩、乗ってみるか?」

「えっ?」


 長兄の言葉に目を見開く昌浩に、成親は明るく笑うとひらりと騎乗する。


「ほら、来い」


 手を差しのべてくる成親に、昌親に抱きあげられた昌浩は、目を真ん丸にして両手をのばし、おそるおそる鞍にのる。

 もう一頭の鞍上に危なげなくまたがる昌親に目配せをして、成親は手綱を操ると馬の腹をやんわりと蹴った。

 昌親もそれにつづく。

 二頭の馬はひとと同じくらいの歩調で進む。

 成親の腕に掴まった昌浩は大興奮だ。いつもよりずっと高いところからの景色に瞬きもできない。

 風が心地よい。いつもは見上げる都人たちの頭を鞍上から見下ろすのは、もちろん生まれて初めての経験だ。


「わあ…」


 思わず歓声を上げる昌浩に、隣の昌親が口元に指をあてた。


「昌浩、馬がびっくりしてしまうから静かにね」

「!」


 昌浩は両手で口を押さえてこくこく頷く。

 幼い弟を弓手で支えた成親は、馬手で巧みに馬を操る。

 常足なみあしで都を出たところで昌親が口を開いた。


「ところで、兄上」

「うん?」

「仔馬の行方、見当はついているんですか?」


 昌親の問いに、成親はついと空を見てから手綱を引いて、一旦馬を止める。


「んん?」


 昌親は、とりあえず兄に倣う。

 視線を泳がせてうーんと唸ってから、成親は末弟のつむじを見下ろした。


「なぁ、昌浩」

「なぁに?」


 顔を上げる昌浩に、成親はしかつめらしい顔で尋ねる。


「兄は探しものをしなければいけない」

「さがしもの?」

「そうだ。探しているのは仔馬だ。お前、探しものはどこにいると思う?」


 それを聞いた昌親は、半眼になった。


「…………」


 もしやと思っていたが、やはり、なんの手掛かりもなかったか。

 一方、問われた昌浩は、真剣な面持ちで考え込むそぶりを見せた。


「うーん」


 ゆっくりと視線をめぐらせて、ふと瞼を震わせた昌浩は、遠くを見ながらすっと指をさした。


「あっち…?」


 首を傾げた弟の言葉に、成親の瞳がきらりと輝く。


「そうか! よし、行くぞ!」


 突然駆け出した成親の馬に一呼吸遅れて、昌親の馬も駆け足になる。


「兄上、待ってください」

「遅れるなよ昌親」


 馬はさらに速度を上げる。

 楽し気に手綱を操る兄ふたりに対し、昌浩は馬上からの景色を眺める余裕もなく長兄に必死でしがみついた。


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