『吾輩は猫である。たぶんきっと、猫だった』

植田伊織

第1話 ルドルフ

 吾輩は猫である、名をルドルフと言う。


 瞼がぱかりと空いて、暁すら登っていない薄闇の部屋の中で、伸びをする。

 ゴンっと、伸ばした手がベッドフレームに当たった。


 おや、と首をかしげて、上半身を起こす。

 すると――飼い主が、随分と小さく縮んでいた。――まるで、我ら猫と同じ大きさに。

 目の前の出来事に混乱していると、


『シャー!!』


 我が弟、キジトラ猫のリチャードが、


なんだお前! どっか行け!


 と言いながら毛を逆立てていた。

 普段は兄貴分の吾輩に、よく懐いてくれているというのに、一体どうしたのだと話しかけようとして――姿見に映った、己が肉体に目を奪われた。

 

 主と同じ人類と思えない程、大きな体躯に豊かな筋肉……猫時代に自慢だった背筋も、現役だ。

 灰色の大きな瞳はそのままに、黒い毛皮はそのまま、しなやかな黒髪に受け継がれている。


 ――美しい――


 未だシャーシャー言って、足元で猫パンチを繰り出すリチャードをいなしつつ、吾輩は姿見の前へ行って、両腕の筋肉を強調させるポーズを取った。

 鏡の向こう側には、精悍な顔をした美しい筋肉の男が、悩まし気にこちらを見ていた。


「吾輩は……吾輩はなぁんてうつくしいのぉ~~~っ!!!」


 ついつい、いつものようにくねくねしてしまったら、

リチャードが『ギャアアアア』と言って、恐怖の底に叩きつけられたような顔をして、おもらししていた。

 お前、兄貴が人間化したっていうのにその態度は何なんだ。


『ああああ、るどるふ兄さんと同じにおいのにんげんが! 筋肉を慈しんでいる!! るどるふにいさんみたいに! こわいいいいいい』


 もはや失神しそうな程にぎゃあぎゃあわめいて逃げ出そうとするリチャードに、決めポーズをしてみたら、泡を吐いてしまった。

 これはまずい。


「るっさいわねー、猫ども、何時だと思ってるのよ?」


 飼い主がぶつぶつ言いながらベッドから顔を出した。

 決めポーズ中の吾輩と目が合う。


「――主、ルドだよっ」


 怖がらせないように、優しく、サイドステップを決めて言っただけだったんだけどなぁ。


「ぎゃあああああ、変態いいいいい!!!」


 主の叫び声が部屋に響いて、吾輩は危うく護送される所だったのである。



 飼い主メモ


 愛猫ルドルフは、黒豹のように大柄だった猫!

 筋肉粒々で、明らかに弟のリチャードと体格が違い、顔が大きいという猫界のイケメンの条件を満たす、モテモテ猫だったよ!

 

 音楽をかけると尻尾でビートを刻むし、合いの手を入れる。

 しかも泣き声はめっちゃ可愛いソプラノで、

「あ~ん」だの「ぽっ」だの、オネェか?って感じの話し方をよくしたよ

 此奴は育ったらどうなっちまうんだ…と心配になるくらい個性的な猫だったよ!

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