第六話 持たざる者たちの戦場
蓮の自室から数キロ離れた、代々木公園。 普段は市民の憩いの場であるはずの広場には、今、巨大な「泥の山」のようなダンジョンが出現していた。
「――っ、うあああああ!」
悲鳴が響く。 自衛隊や警察が現場を封鎖する直前、功名心やパニック、あるいは「自分ならやれる」という根拠のない自信に突き動かされて突入した一般人たちが、そこにいた。
その中の一人、半グレ集団のリーダー格だった阿久津は、手にしたバールを震わせていた。 彼らのような「力に自信がある者」にとって、この変貌した世界はチャンスに見えたのだ。
「クソが……なんだよ、こいつら!」
目の前には、三匹のゴブリン。 蓮が木刀一振りで散らした雑魚(ザコ)だ。だが、現代社会のルールで生きてきた人間にとって、それは悪夢の具現化だった。
「オラァ!」
阿久津が渾身の力でバールを振り下ろす。 重い金属音が響くが、ゴブリンは嘲笑うかのように身をかわし、阿久津の太ももを錆びたナイフで切り裂いた。
「ぎゃああっ! 痛ぇ、痛えええ!」
一撃。たった一撃で、阿久津は戦闘不能に陥った。 現代の格闘技も、ストリートの喧嘩術も、死ぬことを恐れない化け物の前では無力だった。 彼らは知らないのだ。ここは「気合」ではなく「ステータス」と「スキル」が支配する世界だということを。
「助けて……誰か……!」
阿久津の仲間たちが次々と倒れ、逃げ惑う。 だが、ダンジョンの入り口は無情にも「内側から」は開きにくい構造になっていた。
その頃、公園の外側では、ようやく到着した自衛隊の特殊作戦群が、最新鋭の機材を投入しようとしていた。
「小銃は効かん。対戦車ミサイルはどうだ?」 「ダメです、入り口の結界に弾かれます! 特殊な『魔力』を纏った攻撃でなければ、内部構造さえ破壊できません!」
指揮官は歯噛みした。 国が誇る最新兵器が、たかが数匹の緑色の怪物に足止めされている。 そこに、情報官が息を切らせて駆け寄ってきた。
「閣下! 研究機関から連絡です! 例の『ダマゾン』という謎のサイトに、今朝、新たな出品がありました!」 「なんだと……またか」 「『汚染浄化の魔石』――それも、純度が極めて高い。これがあれば、モンスターの毒で動けなくなっている負傷兵たちを救えます!」
指揮官はモニターに映し出された『ダマゾン』の画面を睨みつけた。 そこには、ふざけたような「24時間以内にお届け」という文字。
「……世界が崩壊している間に、優雅に魔石を換金している奴がいるというのか。一体何者だ。プロの探索者か、それとも……」
「供給元」を特定しようとする国家の監視網。 しかし、その出品者が今、自分の部屋で母親に隠れて「異世界コーラ」を飲みながら掲示板の書き込みを見ているニートだとは、誰も想像していなかった。
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