完全覚醒の勇者
塩塚 和人
第1話 封印された勇者
逢坂ゆきみは、強烈な光の渦の中に立っていた。
周囲の景色は見覚えのある東京ではなく、異世界の荒れ果てた城の大広間。
その中心には、黒い影がうごめき、魔王の存在をひしひしと感じさせた。
「やっと…終わったのね…」
ゆきみは震える手で剣を握りしめた。
五年間、戦い続けた日々。仲間の笑顔も、敵の叫びも、
すべてはこの一瞬のためにあった。
最後の一撃。魔王は嘆息とともに崩れ落ち、世界に静寂が戻った。
光は次第に強くなり、ゆきみを包み込む。
それは勝利の証であると同時に、異世界からの別れの合図だった。
気が付くと、ゆきみは自分の部屋のベッドの上に座っていた。
見慣れた窓の景色、机の上の教科書、スマートフォン。
すべてが現実の世界だった。けれど、心の中に虚しさが広がる。
「……魔王は? 本当に倒したの?」
小さな声で自問する。答えは誰にも出せない。
異世界での経験は、今の自分には何の力も持たない普通の少女。
レベルもスキルも、ステータスも、すべて封印されていた。
その時、弟の大輝がリビングから顔を出した。
「姉ちゃん、帰ってきたんだ。無事でよかった」
笑顔だが、どこか鋭い眼差し。
「ゆきみ姉ちゃん、もう普通の生活に戻るしかないの?」
ゆきみは肩を落とす。
「そうね……でも、もう戦う力はないの。普通の生活しかできない」
大輝は黙ってスマホを手に取り、画面をゆきみに見せた。
そこには、奇妙なニュース記事と動画が表示されていた。
「見て。東京にダンジョンが現れたんだって。もう五年前だよ」
映像には高層ビル群の間に浮かぶ異世界の入口。
人々が出入りし、モンスターと戦う様子がリアルタイムで配信されている。
「これ…探索者って呼ばれる人たちなの?」
ゆきみは画面を食い入るように見つめる。
異世界での戦いは終わったが、現代にもまだ異世界の力が影響している。
「……戦えるかしら、私、こんな弱いままで」
大輝はにやりと笑った。
「封印されてても大丈夫。姉ちゃんなら知識と経験で活かせるはずだ」
その夜、ゆきみは自室で配信機材の前に座った。
初心者向けの配信設定を弟に教わりながら、最初の一歩を踏み出す。
「こんにちは、逢坂ゆきみです……あ、えっと、これで大丈夫かな?」
カメラの向こうに未知の視聴者が存在することを意識すると、胸が高鳴る。
初めての配信は緊張の連続だった。
モンスターを見つけても戦う力は微力。
でも、頭を使った戦術や異世界で培った経験で回避し、捕食者から逃れる。
コメント欄には応援や励ましが次々に流れる。
「すごい! 初心者なのに逃げ回りがうまい!」
「経験者かな? 強さの片鱗が見える!」
ゆきみは少し笑みを浮かべた。
弱くても、何かできることがある。それだけで希望が芽生える。
数日後、真壁たかしがやってきた。
「ゆきみ、配信見たよ。君、普通の人じゃないね」
彼もまたBランクの探索者で、ダンジョンの攻略経験者。
「これから一緒に潜るんだ。ランキングも狙えるって話だ」
ゆきみは胸が高鳴った。
封印されていても、異世界の知識と戦術で、現代で新たな挑戦ができる。
「うん……やろう、たかし。ランキング1位を目指そう」
その決意は、異世界での戦いとは別の戦場を意味していた。
こうして、封印勇者・逢坂ゆきみの新たな戦いが始まった。
異世界での強さはなくとも、知恵と経験、そして友情を武器に、
彼女は現代のダンジョン配信世界での頂点を目指す。
光が差し込む窓辺で、ゆきみは微笑む。
「弱くても、諦めない。きっと、何かできる」
外の世界では、夜の街のネオンがダンジョンの入り口を照らしていた。
新たな戦い、ランキングを巡る物語は、今まさに幕を開けたのだ。
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