氷焔の王国
塩塚 和人
第1話 竜の復活
北のリューザ氷原に、異変の兆しが走った。
雪原の地平線が裂け、冷気と灼熱の炎が立ち昇る。
青白い氷の結晶が舞う空に、赤い火花が渦を巻いた。
天と地の境が曖昧になり、風が遠吠えのように響く。
王宮の会議室では、王族と冒険者ギルドの代表たちが緊迫した。
老騎士が声を震わせ、テーブルに拳を叩きつける。「封印が解けたのか…!」
冒険者ギルドの長も頷き、険しい表情で告げた。「北の氷原に異変
が起きています。古文書に記されていた氷の竜が、復活したのです」
その知らせに、王族の若き魔導士は額の汗を拭った。
「早急な対応が必要です。各地の守護騎士団に警戒命令を」
だが、会議室の空気は重く、緊張が誰の肩にものしかかる。
議論が紛糾するたびに、外の裂け目から光の筋が差し込む。
一方、王宮近くの魔法訓練場では、フィリス・ヴァレンが孤独に魔法を試す。
「ううっ…また失敗…やっぱり私じゃ役に立たないのね」
手のひらから散る微かな光は、冷たい雪と闇の中で儚く消えた。
周囲の先輩魔法使いたちは、眉をひそめて見下ろすだけだった。
フィリスは拳を握りしめ、心の奥で何かが疼くのを感じる。
「…でも…私にしかできないことが、きっとある」
視線を北の氷原の裂け目に向ける。赤と青、炎と氷。
そこには、何か未知の力が潜んでいる気配があった。
裂け目の奥、氷の結晶の間に微かに動く影。
それは大地を踏み鳴らすような足音を響かせ、空気を震わせた。
「…まさか、あの伝説の…」フィリスの口から呟きが零れる。
背筋に冷たい風が走り、髪を撫でるように灼熱の風も吹いた。
会議室では、王族たちが作戦を急ぐ。
「騎士団、北端への進軍を命じる!」
「冒険者ギルドも協力せよ!」
緊張が渦巻く中、誰もフィリスに目を向けてはいなかった。
落ちこぼれ魔法使い。彼女の存在は、まだ軽んじられている。
だが、裂け目の向こうでは、何かが彼女を呼んでいた。
氷と炎が渦巻く空間で、青白い光と赤い炎が交錯する。
手を差し伸べるように、微かな光が指先に触れた瞬間、
フィリスの心に小さな覚悟が芽生える。
「…私が行かなくては…!」
叫ぶように決意を胸に刻み、彼女は一歩を踏み出した。
雪原の荒れ狂う風に耐え、赤と青の光を目指して進む。
氷原の地平は遥か遠く、竜の姿をまだ見せないが、確かに何かがいる。
そのとき、微かな低い咆哮が響いた。
大地が震え、遠くの山々が揺れる。氷の結晶が粉雪のように舞い、
火花が空中で閃く。大自然の怒りのような轟音が、フィリスの心を揺さぶった。
「…これが…王国の運命の始まり…?」
手のひらを見つめ、魔法の残光が微かに揺れる。
落ちこぼれの少女は、まだ力の半分も知らない。
だが、この瞬間、何かが目覚めた――。
北の氷原に立つ彼女の後ろ姿に、赤と青の光が絡みつく。
世界の運命を変える冒険が、今、静かに幕を開けたのだった。
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