レゾナンス・ライン ─緋色の再誕─

暇ジーン

第0話 プロローグ



空が剥がれ落ちていた。

かつて青かったはずの天蓋は、幾何学的な結晶体に浸食され、無機質な灰色の光を放っている。降り注ぐのは雪ではない。あらゆる生命活動を停止させる「静止の塵」だ。


「……あれが、僕の受け持つ『兵器』ですか」


カイは、移動要塞『エデン』の最深部、第13格納庫のキャットウォークに立っていた。


眼下には、先史文明の遺跡から掘り出されたという三体の一致機(レゾナンス・ギア)が、沈黙を守っている。


無機質なはずの装甲が、まるで生き物のように不気味に蠢き、呼吸しているように見えた。


「兵器じゃないわ。それは、私たちの『命』よ」


背後からかけられた声に振り返る。そこには、三人の少女が立っていた。


先頭に立つのは、鋭い眼光を放つ紅アキラ。

彼女の首元には、皮膚を突き破って赤い結晶が芽吹いている。

その後ろで、冷徹な瞳を向ける蒼井シズカ。彼女が歩くたび、金属の床に薄い霜が降りる。

そして、一番後ろで幼い少女のような微笑みを浮かべる黄河ヒナタ。彼女だけは、この絶望的な空気の中で「普通」に見えた――その異常なほどの体重で、踏みしめた鋼鉄の床をわずかに歪ませていなければ。


「君たちが……パイロットか」


二十歳のカイにとって、彼女たちはあまりに幼く、そしてあまりに壊れていた。


軍の上層部からは聞いている。彼女たちは「G粒子」に魂を焼かれ、人間としての境界線を失いつつある消耗品なのだと。


「今日から君たちの指揮を執ることになった、カイだ。僕は――」


「挨拶はいらないわ、隊長さん」


アキラが吐き捨てるように言った。彼女はカイの胸ぐらを掴み、その顔を至近距離まで引き寄せる。

彼女の身体からは、鉄が焼けるような熱気と、噎せ返るようなG粒子の香りが立ち上っていた。


「あんたの仕事は一つ。あたしたちが『化け物』になりすぎないように、手綱を握っていろ。……もしあたしが完全に壊れたら、その時はあんたの手で殺して」


アキラの瞳の奥で、真紅の光が爆ぜた。


その瞬間、基地全体を揺るがす警報が鳴り響く。


『静止領域、拡大を確認! 敵対個体、防衛境界線に侵入!』


「……来たな。挨拶は戦場で済ませようぜ、死に損ないの新人隊長」


アキラは不敵に笑い、自分たちの「棺桶」であるコックピットへと飛び込んでいく。シズカは無言で、ヒナタは「またあとでね、隊長さん」と優しく手を振ってそれに続いた。


カイは震える手で、初めて手にする指揮官用の通信機(チューナー)を握りしめる。


モニターに映し出されるのは、三人の「人間としての残り時間」を示す汚染グラフ。


「ああ、わかったよ。……死なせはしない。君たちも、僕の心も」


カイは、漆黒の起動キーをコンソールに突き立てた。


それが、少女たちの悲鳴と、血を吐くような咆哮に彩られた「物語」の始まりだった。

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