第2話【ちょっと不思議な話】日傘の女

 何年も前のことなのでうろ覚えのところもありますが。


 


 自動車を運転し会社に向かっている途中のことです。


 私の車の前を、日傘をさしている女性が一人歩いていました。


 車がすれ違うのもやっとの細い道です。女性は道の真ん中をゆっくり、私が向かう方向に歩いていました。


 道路の真ん中を歩いている女性を避けて追い越せるほどの道幅は無く、かといって歩行者が真ん中を歩くには非常識な幅の道路です。


 女性の上半身は傘で隠れていました。私がなぜ女性だと判断したかは定かではありませんが、おそらく背格好の雰囲気からだと思います。


 女性は後ろから私の自動車が来ているのに気づいていないのか、振り返りもせず、道の端にも避けず、悠然と歩いています。


 すぐに気付くだろうと、徐行で女性の後をつけましたが女性はなかなか気づいてくれませんでした。自動車のスピードは時速5kmくらいだったと思います。このままでは遅刻しかねないためクラクションを鳴らしました。


 しかし、女性は全く動じません。間隔を開けもう一度鳴らしましたがやはり振り返るどころかピクリとも動きません。


 ここで私は違和感をおぼえました。真後ろからクラクションを鳴らされ、少しもビクッしないなんてできるでしょうか。クラクションを鳴らしたときも日傘は全く揺れませんでした。


 ただ単にこの事実だけだと「耳が聞こえない」「イヤホンをしていた」「図太い神経」などと考えるでしょうが、どうも私はそんな気がしないのです。それはそのときの空気感としか言えないのですが。


 やがて女性は右折し、私は通常の速度に戻り直進しました。女性がどんな顔なのか、年齢はいくつくらいなのか。右折したときも日傘によって女性の腰から上は遮られていました。


 あとから気になったことがあります。この女性の後ろを走っている間、私と女性意外の誰ともすれ違わなかったことです。


 通勤時間のため普段ならこの道で数台の対向車とすれ違うのですが、この日は一台もすれ違わず、私の後ろから来る車もありませんでした。近所の大型スーパーにつながる道の為、歩行者も自転車もいないというのは普段なら考えられないことです。この日に限って妙に静かだったのです。




 それから数カ月後。やはり通勤時、同じ場所で再び同じ女性に遭いました。


 同じ女性だと確信したのは、日傘を後ろにさしてゆっくりと道の真ん中を歩くその雰囲気が全く一緒だったからです。相変わらず周囲を気にする素振りもなく私の車が迫っていることも意に介しません。


 ただ前回と違うのは、女性が二人になっていたことです。


 同じ背格好、同じ日傘の女性が二人、道の真ん中を、横に並んで歩いていました。


 前回同様、私の車を無視し、歩く速度を変えずにいます。クラクションを鳴らしました。


 すると二人は振り返り・・・・なんてことを想像し、正直気分は高揚しました。ですが現実は違いました。やはり全く、微塵もクラクションに反応しないのです。「二人ともイヤホンをしている」「二人とも耳が聞こえない」どうでしょうか。現実的な推測でしょうか。


 クラクションを数回鳴らしましたが、ただの一度も、ピクリともしてくれませんでした。前回と同じ箇所で二人は右折しました。やはり、どうしても顔は見れませんでした。


 


 「道の真ん中を歩いている人がどいてくれなかった」だけのただの話なのですが、数年経った今でも私はどうしても違和感が捨てきれません。本当に、こんなにも、全く、反応しない人がいないでしょうか。ふつう急にうしろからクラクションを鳴らされたらビクッとしませんかね。


 突飛な想像ですが、どうしても私はその女性たちは人間じゃない何かな気がするのです。




 それから間もなく、出勤ルートが変わったためその道は通っていません。


 何年間も毎日同じ時間に通っていたのに、その女性たちに遭ったのはその二回だけというのも不思議な気がします。  


 そういえば二回目に遭ったときも対向車や歩行者はいませんでした。


 そんなに顔を見られたくなかったんですかね。

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