異世界ツアコン添乗員日誌 ~ようこそ、イーマ県遺跡ツアコン・トラベルガイド・サポート社へ~

吉高 都司 (ヨシダカ ツツジ)

第1話

 天気晴れ。

 今日も快晴で気分サイコー。

 ウンと背伸びをして、息を大きく吐いた。

 今日も、仕事仕事!

 と、手をパンと打ち鳴らし、一の太陽に挨拶をした。

 二の太陽は3の日に出るから、今日は丁度いい気候だ。


 一と二の太陽が一緒だとかなり暑く、観光どころじゃなくなるし、今のうちにお客さんを案内できたらいいな。

 そう思いながら、今日のスケジュール表に目を通した。



 ここ、古都、古い王都であったイーマ県は、伝説ひしめく古代王都があった地域であり、たくさんの観光ガイド、ツアコンの会社がひしめいていた。

 わが社、イーマ遺跡ツアコン・トラベルガイド・サポート社もその幾多有るガイド会社の中でも零細中の零細。

 社長と奥さんの専務、ガイドの先輩である娘さんが一人、そして私。

 色々あってここの社長に拾ってもらったおかげで、何とかこの仕事に就かせてもらっている、ありがたい。




 集合場所の、エリアで、観光バスがひしめき合っていて、その中から、あらかじめ予約の入ったお客を探し出し、引率し、案内してそして、またここに戻ってくる。

 まあ、さながら戦場だ、一応目印は予約の時に念押ししているが、中々スムーズに行かない。

 それで、ツアーの時間が押したり、提携しているお土産屋に寄る時間が無く、後でこってり絞られることになる。

 一大観光地は持ちつ持たれつ、といった側面もあるようだ。

 案の定、ツアー客が数人遅れているようだ、えっと、新婚カップル、か。

 と何だか嫌な予感しかなかった。

 でっかい荷物を、わっせわっせと担いでくる男女のカップルがいた。

 旦那さんは角が立派な半獣人、お嫁さんはエルフか、ハーフエルフ。

 荷物はほとんど、旦那さんが持っている、いや持たされている様で。

 息も絶え絶えで、「すみません、すみません」とその容貌に似合わず、とても腰が低かった。

 でも、お嫁さんの方は悪びれることなく、ずーっと携帯端末視線を落としている。

 それでも何とか合流する事が出来た、上等、上等!スケジュールの確認をお客様いざ出発。


 今日のお客様は、先程の新婚旅行の半獣人の旦那様とエルフのカップルが一組と、王都立大学の女学生の3人のグループ、それと少し年を召されたハーフエルフのご婦人がお一人、お父さんが後で合流するとの事で、息子さん、娘さん、お母さんの一家族。

 まあ、私とすれば、このキャパの三倍は大丈夫。

 と、自分で元気つけなきゃと、虚勢を張っていた。



 その矢先。

「添乗員さん」

 そう呼ばれたのはイーマ・ゴウシャウの神殿に入ってすぐの事だった。


 この神殿からイーマ・ゴウシャウ神話物語は始まっているので、コンスタントに観光客は途切れることは無い。

 尤も、私の所の零細の観光案内、ツアーコンダクター兼添乗員もしているところなんて、まあ、たくさんある訳で。

 その観光地で沢山ある業者の中で、わたし会社を選んでくれただけでも有難いと思わなきゃ。


 天気はその時の状況を暗示するかのように、曇りだしやがて雨となった。


 呼ばれた私は、スマイルスマイルで、「ハイなんでしょう?」と私を呼んだ、新婚さんのお嫁さんの所に馳せ参じた。

「あのー、ここの場所って、他に見るところないんですか?」と、不満を、如実に表したままの不満そうな表情をぶつけてきた。

 心の中で、スマイルスマイルと唱えながら、「ハイ、ここは、かの昔、そう、神話時代に遡ります、かの大神ォキ・キオッマ、海の神ヘキ・シイ・ネヘ、旧神サハヒ、そして古代神ソオヱトが一大会戦をここ・・・」と、さも、この辺りで一大スペクタクル巨編が展開するかの如く、大きく両手を広げ、朽ちた宮殿が散在している荒涼とした遺跡群を、どうだと言わんばかりに、さあ見なさい、と言わんばかりに示そうとした途端。

「あのサー、そんな昔話はドーデもいいからさー、何かパットしたもの無いの?」と、視線は私でなく、携帯端末を覗きながらそのお嫁さんは、冷めたトーンで言ってきた。

 私は、視線を隣の半獣の旦那に向け、心の中で、「あんたの嫁さんだろう、何とかしろよ。」

 と訴えたが、さっと、視線を外しやおらガイドブックか何かを開き始めた。

「ここ、おいしいものがあるみたいだよ。」

 と、旦那さんがフォローをしてくれた。

「フーン」

 とそのガイドブックを一瞥したかと思うと、そう言ってまた、携帯端末に目を落とした。


 その場を、引きつる笑顔を旦那に残し。

 苦笑いで、脱出して、息をついた。


 その時、ちらっと、年配のご婦人がこっちに目線が合った。

 少し微笑んだかな、と思うような、気のせいか。



 王都立大学の三人娘と、お父さんが後で合流する家族の娘さんがどうやら、王都大学を受験するらしく、しきりに娘さんの方からのアプローチで、大学の事をリサーチしきりでいつの間にか仲良くなっていた。

 旅行ツアーでは、こんな出会いもおつなもので、結構旅先で仲良くなって、旅先から帰っても友達になったと言うのも珍しくもなくそれが旅の醍醐味でもあるんだな。

 いい友達になれたら良いな、と苦笑いがほっこりした笑顔になるのが自分でも分かる。


 また、ふと年配のご婦人と目が合ってしまった。


 キャンパスライフに目を輝かせている娘を、家族旅行だからと言って、無下に家族だけ、と割り切ることも、蔑ろにすることも興醒めするからと、好きにさせているのだろう。

 旅は大人数の方が多い方が楽しい事もあると言ったところだろう。


 どんなことでもいい、この度がその人にとってかけがえのないものになればと、ガイド、ツアコン冥利に尽きる。


 昼食の郷土料理屋に到着して、ツアー客を食堂の座席に着いた時、血の気が引いた。

 予約が入っていない、と。

 目の前が真っ暗になった。


 そして、雨脚がひどくなってきた。

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