居酒屋のソース

☒☒☒

第1話

「先輩、よくそんなもん使えますね」

「えっ、ソースだよ? レバカツにはソースに決まってるでしょ」

「いや、からしがついてるじゃないですか。でも、そもそもそのソースよくみてくださいよ」

「ソースだね。一般的な。店独自の継ぎ足してきた秘伝の味とは違いそうだ。ん? そんなひどい顔してどうしたんだい?」

「先輩、気づかないんですか。そのソースなにか底の方に沈殿してるじゃないですか」

「そりゃあ、ソースって野菜とか果物とかを煮込んで作るのだからある程度材料が残っても不思議じゃないんじゃ?」

「自家製ならあり得るかもしれないですが、先輩もさっきいったように一般的に売ってるやつですよそのパッケージ」

「じゃあ、最初は一般的なやつを買っていたけれど、そのうち自家製をいれるようになったとか」

「まあ、それもあり得ないわけじゃないですけど……それはそれで不衛生な感じがして僕はいただけません」

「不衛生って、いまどきというか。神経質だっていわれない? 潔癖とか……」

「先輩が鈍感すぎるんですよ。だって、その沈殿物が自家製のせいだとしたら自家製のソースを既製品のソースに継ぎ足していってるわけでしょ。賞味期限なんて全く分からない。口にしていいものかも怪しいんですよ」

「そんな……大げさな。それに現に俺はもうこのソースでレバカツを食べてしまった。以前からこの店には来てるから、このソースを食べるのは初めてじゃない。腹なんて一度も壊したことない」

「先輩、この前の忘年会でみんなが蠣にあたったときも一人だけ無事でしたよね」

「ああ、そうだったのか。あの日は大変だった。みんなの分のフォローを一人で裁くのは。別の部署からも助っ人がきたが、基本的にどれをまかせるかとかの選定は全部俺だったから……」

「その節は御迷惑おかけしました。こうやって、お礼の気持ちをこめてごちそうしているじゃないですか」

「あっ、ここお前のおごりか? サンキュー!」

「いいですけど……おかしいと思いませんか? みんながおなかを壊しているのに先輩だけ無事なのは」

「それは……俺の日ごろの行いがいいから」

「そうじゃないんですよ。僕は考えて、ある仮説にたどりついたんです」

「仮説っておおげさな」

「まあ、聞いてください。先輩がおなかを壊さなかったのはそのおなかの中に丈夫な理由があるはずなんです」

「体質じゃなくて?」

「体質っていうか、なんでしょう。おなかの中に人間じゃないものがいて、そいつを毒素を無力化しているんですよ」

「また、気持ち悪いことを。俺がエイリアンに寄生されているとでもいうのか?」

「そうです。さすがにエイリアンなんていいませんけど。おそらく先輩の腹部には特殊な寄生虫がいてそいつが腹にとどまるために先輩だけは無事だったんですよ。ほら、腹を壊すと寄生虫も一緒にだされちゃうおそれがあるから」

「へー」

「なにつまんなそうにしてるんですか。そして、その原因が今目の前にあるソースの底に沈殿しているものです。おそらく、虫の卵でしょう。この飲み屋という特殊な環境で育った寄生虫が先輩のなかで育って……ぼえっ、気持ち悪い。先輩、助けてください。なんかにあたってしまったみたいです。この居酒屋前からちょっと苦手なんですよね。不衛生というか」

「分かった。ほら、くちをあけろ。いまからこのソースを」

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