愚か者の選択-4
愚か者の選択-4
魔術師は、両手を手錠で拘束された俺に、色々な薬品を飲ませた。薬品の中には、何の問題もない物もあったが、中には臓腑からエグみが湧き上がってきて、吐くことすら出来ないこともあった。時々、俺は死んだ。
魔術師は、その反応を観察して、メモをしている。だが、何やら不服そうだった。
「ギガ・ログ・ヌ・ガッ! ゾ・ズ・ダッ・ガァ!」
何やら怒っているようだが、良く分からない。俺は無表情で魔術師を見つめる。それを見て、魔術師が余計怒り始めた。俺は呟くように言う。
「そんな怒鳴られても、言葉が分からないから良く分からん」
その言葉に反応したのか、魔術師が杖を取り出して俺に付きつけた。俺は何も反応しない。今さらもう一回くらい死んでも変わらないからだ。
杖を見つめていたら、その先から何やら光が飛び出してきた。俺は、瞬間的に目を瞑る。
「私の言うことが分かるか?」
俺の耳に、久しぶりの人声が聞こえて来た。目を空けると、魔術師の口が動いている。
「あれ?言葉が・・・分かる!?」
俺が思わず叫んだ。魔術師はうるさそうに、俺を睨みながら言う。
「お前に薬品を飲ませても、ちっとも反応しない。たまに死ぬが、それだけではデータが取れん。言葉で説明してもらわんと困るから、意思疎通の魔法を掛けた」
俺は、久しぶりの人間の声に感激した。そして魔術師に抗議をする。
「そんなのがあるなら、もっと早く掛けてくれれば良かった!」
魔術師が、怒って答える。
「この魔法は、高位の黒魔法だ!なんでお前のためにわざわざ寿命を削らないといけないんだ!」
そして、薬品を俺に付きつけながら言う。
「ったく・・・削った分は働いてもらうぞ」
こうして俺はようやく言葉が分かるようになった。だが、生活は変わらない。魔術師が寝ている間は牢獄に閉じ込められ、起きている間は実験台にされる。実験台にされている間は、その時の身体の反応をわざわざ説明しなければならない。
「この薬は、胃を過ぎた辺りから刺すような痛みが巻き起こり、それから呼吸が出来なくなって、死にます」
食レポならぬ、死にレポだ。魔術師は、それを聞いて満足そうにメモを取っていく。俺はメモを取っている魔術師に聞く。
「なんの実験をしているんですか?」
魔術師は目も合わせずに答える。
「黒魔法の研究だ。偉大なる進歩の役に立てるんだ。光栄に思え」
そう言って、次々に薬品を飲ませる。明らかに強酸の様な薬品もあり、これは臓腑から焼き付いて、死ぬに死ねないのが辛かった。
実験体の日々が続く。俺は少しずつ脱出する方法を考えるようになった。以前囚われていた時は、言葉も通じなかったのもあり、逃げる気すらしなかった。だが、言葉が通じるようになると、今まで忘れていた希望が頭をチラつき始めたのだ。
「この地獄から、逃げ出したい。逃げ出しても、何とかなるかもしれない・・・」
感情が擦り切れていく中で、それだけを頭に刻んで死に続けた。
ある日、魔術師が別室に俺を連れて来た。そこには床に魔法陣が掛かれている。俺が魔術師に尋ねる。
「これは?」
魔術師が答える。
「黒魔法の契約更新だ。生贄が必要だから、お前を使う」
酷いことをサラッと言ってくる。俺は、床を見ながら何やら準備をしている魔術師を尻目に、周りを見渡した。この部屋は普段は物置として使われているらしく、今まで飲んだ薬品も色々と保管されている。その中に、以前飲んだ強酸の入った、大きなガラスの壺があるのを見つけた。俺は、魔術師が魔法陣に熱中している間に、その壺に近づくと、口を使ってその壺の蓋を開ける。そしてそこに、拘束された自分の両手を突っ込んだ。
声を出さないようにする。痛みにはさんざんなれたので、これは余裕だった。手錠は中々溶けないが、自分の両手が溶ければそれでいい。どうで死んで生き返れば元に戻る。手がほとんど溶け堕ちて、骨だけになった辺りで、手錠が外れた。
俺は魔術師に後ろから近寄る。後ろに立った瞬間に、魔術師が何かを起動して立ち上がった。俺は、その立ち上がった魔術師の目に向かって、後ろから自分の溶けた手を押し付ける。その手に着いた強酸は、魔術師の目の視力を奪った。
「うぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっぁぁあ!」
魔術師が叫ぶ。
「それぐらいで、そんなに騒ぐなよ・・・」
あまりにも叫ぶので、イライラして呟いた。耳を塞ぎたいが、手が使い物にならないのでそれも出来ない。ため息を付いて魔法陣を見ていると、その真ん中から、何かが出て来た。
そこには、ヤギのような頭を持ち、蝙蝠のような翼を持ち、鹿のような足を持つ何かが居た。
「また化け物か・・・」
俺の呟きに抗議するかのように、目の前の化け物が言う。
「化け物ではない。私は悪魔だ。黒魔法の契約更新のために召喚された」
俺は悪魔と魔術師を交互に見つめる。魔術師は目を抑えてうずくまっており、それどころではなさそうだ。せっかくなので、悪魔と話してみることにした。
「悪魔って、あれ?生贄と引き換えに願い事を叶えてくれるってやつ?だったら、俺の死なないスキルを消したりとか出来ない?」
悪魔は、クソ真面目に俺の質問に答える。
「私には不可能だ。それは私よりも高位の存在によるもの。私では介入できない」
俺は続けて聞いてみる。
「その高位の存在ってのには、会えないの?」
悪魔が答える。
「それに答えるには、対価が必要だ」
俺はそれに答える。
「だったら、そこの魔術師で払う。それでいいか?」
その声を聞いた魔術師が、見えない目を俺に向ける。表情は恐怖しているようだが、俺にはどうでもいい。悪魔は答える。
「それで構わん」
契約が成り立った。対価の回収が行われる。魔術師は、突如として皺だらけになって、果てた。
その瞬間、俺の頭に会うための方法が直接刻まれた。色々な方法があるようだが、黒魔法を使う方法もあるようだ。俺は悪魔に続けて訊く。
「その魔術師は、黒魔法の契約更新のためにアンタを呼んだ、って言ってたけど、俺が契約することもできるの?」
その問いに、悪魔が答える。
「可能だ。だが、対価が必要になる。黒魔法を使うときにもだ」
俺は、それで構わなかった。魔術師の言い分だと、死んでも死ぬだけのようだし、対価の支払いで死に切れるなら、それで構わない。
「了解!それじゃあ、契約成立で!」
契約が成り立った。対価の回収が行われる。俺は死んだ。
目が覚めると、頭に黒魔法の使い方が突然浮かんできた。先ほどと同様に、頭に直接刻まれるようだ。生き返った拍子で、手も元に戻っていた。
「死ねなかったか・・・残念だ・・・」
俺は無表情で呟く。いい加減、死にたい。
悪魔に教えてもらった方法を、契約で得た黒魔法で出来るかを確認する。どうも、これだけでは無理なようだ。より高位の悪魔と契約して、上位の黒魔法を使えるようにする必要があるらしい。
俺は、魔術師の部屋を漁って、黒魔法の情報をまとめていく。
「俺は、死ぬために、この世界で黒魔法を極めなくちゃいけないらしい・・・滅茶苦茶面倒だ。なんで死ぬためだけに、こんなことをしなけりゃいけないんだ」
俺は、前の世界で願った自分の愚かな選択を後悔した。このギフト、と言うか呪いも、誰かに押し付けられたわけではない。全て、自分の選択なのだ。誰かのせいにしたいが、誰のせいにも出来ない。
魔術師の部屋から、服を見繕って着替える。サイズは丁度良かった。着替えながら、これからのことを考える。
俺の、この死なない能力を、誰かに知られると不味い。知られた瞬間に、酷い目にあう。
だから、俺が死ぬまで、俺が死なないと知った奴らには、みんな死んで貰わないといけない。
着替え終わったころに、玄関のドアのベルを鳴らす音がした。ドアに近づいて覗き穴から外を伺うと、俺を助けて、殺しまくった、あの二人が居た。
「ちょうどいいや。死んで貰おう」
俺はドアを開けると。驚いて俺を見つめる二人に、拘束魔法を使って、部屋の中に連れ込む。二人が口々に喋る。
「おい!なんでお前が出てくる!」
「さっさと放せ。この虫けらが!」
二人の言葉を聞いて、話が分かるようになっていたことを思い出した。俺は二人に聞く。
「俺の事、誰かに喋ったりした?」
二人が口々に喋る。
「お前の話なんてするわけがないだろ!気持ち悪い!」
「この化け物め!」
どうやら、この二人から漏れては無さそうだ。心置きなく死んで貰うことにした。
魔術師の家にあった物から、旅に必要な物をかき集めた。これから上位の悪魔を探して、契約を結ぶ旅に出なければ行けない。
荷物を背負いながら、少しワクワクしてきた。前の世界では、死んだように生きていたが、この世界で、ようやく人生に目標が出来て、生き生きし始めたのが分かる。
俺は家から出ると、魔法で家に火を放った。家が燃えていく。
「これで、俺の痕跡は残らないはず・・・と」
俺は家を背にして歩き始めた。死ぬ方法を、探すために!
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