へたれタレ目猫背長身女子と(元!)女子校の王子様。

燈外町 猶

第1話・告白

 今日は12月14日。出会ってから半年と少し。最後に見た時刻は21時41分。それから今、どれくらいの時間が経っているかはわかりません。

 世界に二人ぼっちだと錯覚してしまうほどの闇の底で、流星群と呼ぶにはいささか控えめな流れ星達を眺める私は、いつの間にか隣ではなく背後に移動していた檻宮さんに抱きしめられてしまいました。

犬倉いぬくらさん、」

「な、なんでしょうか……!?」

 私の名前を呼びながらピタリと体を密着させ――私たちの距離感をそのまま表したかのような――隙間を埋めた檻宮おりみやさん。

 その声音は白銀に染められるまでもなく美しく、まっすぐに私の耳を通って脳内に響き渡ります。

「私を、犬倉さんの彼女にしてください」

 小さく言葉を紡ぎながら強まっていく腕の圧力に、一瞬脳裏に過ぎったドッキリという可能性が遠くへ消し去っていきます。

 私は。

 私は今――

「い、いいんですか……? わ、私なんかで……」

「いいもなにも……こんなに人を好きになったのは……誰かを恋人にしたいだなんて思ったのは、生まれて初めてだよ。犬倉さん以外にありえないんだ」

 ――幸せの最高潮にいます。

 何の目的もなく入った大学に、今日までの半年以上、一日だって退屈することなく通うことができたのは間違いなく檻宮さんのおかげです。

 檻宮さんがいるから、という理由だけで入った演劇部も、今では大切な居場所です。

「私も……私も、檻宮さんのことが大好きです。私も、檻宮さんの彼女にしてください」

「うん、する。絶対にする。絶対に……幸せにする」

「…………どうして……」

「どうして?」

「空、見てください」

 どうして、こんなタイミングで。こんなに嬉しい涙が溢れてやまないタイミングで、今までジッとしていた星々が、ようやく流星群と呼べる大群となって降り注ぐのでしょう。

「きっとすごく綺麗なのに、ぼやけて全然見えません」

「あはは、私も。私もだよ、犬倉さん」

 抱きしめる強さを維持したまま、さらりと取り出して器用に私の涙を拭ってくれるハンカチから、檻宮さんの香りがしました。

「また来よう。二人で何度も星を見よう」

「はい。……今度は私に檻宮さんの涙を拭かせてくださいね」


×


 お互いの涙が止まる頃には、見計らったように流星群も息を潜めしまい、私たちは――行きと同じく檻宮さんの運転で――天体観測の穴場スポットを後にしました。

 レンタカーの助手席で揺られながら、未だ高鳴る胸を宥めつつ私は一つ、提案をします。

「檻宮さん、お願いがあるのですが」

「なぁに?」

 檻宮さんは前を向いたままですが、私は彼女の少し赤くなった目元を見ながら続けました。

「私たちがお付き合いすること、できればしばらく秘密にしていただけると……」

「……秘密……か、いい響きだね。犬倉さんがそうしたいならもちろん誰にも言わないよ」

「ありがとうございます」

 檻宮 彩世あやせさん。我が演劇部が誇る唯一無二の王子様。高校時代からその立ち位置は不動のものとしており、学園内外に様々な特色を持つファンクラブが乱立し、人には言えないことをやっている過激派がいるなんて噂もまことしやかに囁かれています……私なんかお付き合いしているなんてことが知られてしまえば、闇討ちされるなんてことも……! そんなことになったら檻宮さんに迷惑がかかってしまいますからね……。

「だけど、長くは続かないかも」

「へっ!? それは、どういう……?」

「私さ、犬倉さんに全部を捧げるつもりだから」

 生まれ持っていたのか日頃の発声練習の賜物なのか、凛と透き通る声で、檻宮さんははっきりと言いました。

「全部、ですか?」

「そう、全部。体も、心も、時間も、全部。もちろん振られたら今まで通りに接してたけどね、彼女にしてもらえるなら、自分の全部を捧げるって決めてた。みんなに優しい王子様はもう引退。だから、周りにはすぐにばれちゃうかも」

「そ、それはそれは……」

 なんとお答えしたらいいのでしょうか……? 嬉しいですが困ります……恥ずかしいですがとても嬉しい……!

「わ、私もです!」

「というと?」

「私も全部捧げます! ……とはいえ、引退できることはないんですけれども……」

「……ふふっ、犬倉さんは可愛いなぁ……」

「んな、どういうことですか!?」

「私と犬倉さんの熱量が同じだったら……それは嬉しいけど……ふふふっ」

「なに笑いなんですかぁ!?」

 気づけば話は一転二転して、いつも通りの雑談に花が咲いてしまいます。

 そんなこんなであっという間に私がひとり暮らしをしているアパートに到着し、車を降りた後も、それから家まで歩く短い間も、私が部屋のドアを閉じるまで、檻宮さんが運転席から送ってくれる視線が途切れることはありませんでした。

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