第5話「姫様、畑仕事をする」
ソフィアの話によると、彼女はやはり政争に巻き込まれたらしい。
優秀すぎる姉や兄たちに疎まれ、ありもしない罪を着せられ、呪いを受けて国外追放処分にされたのだという。
護衛たちも途中で魔物にやられ、あるいは逃げ出し、最後は一人で死を待つのみだったそうだ。
「私も、あなたと同じ『追放者』というわけですね」
湯気の立つスープを飲みながら、ソフィアは自嘲気味に笑った。
今夜のメニューは、たっぷり野菜のミネストローネと、焼きたてのフォカッチャだ。
彼女はその味に、一口ごとに目を見開いて感動していた。
「信じられません……。王宮の晩餐会でも、これほど深い味わいの料理は出たことがありません。身体の奥から力が湧いてくるようです」
「素材がいいからね。ここの土は特別なんだ」
数日後。
体力が完全に回復したソフィアは、意外な行動に出た。
「カイル様、私もお手伝いさせてください!」
白い簡素なワンピース(僕のシャツをリメイクした)に身を包み、彼女はやる気満々で畑に現れた。
その細腕でクワを持てるのかと心配したが、彼女の瞳は真剣そのものだった。
「ただ飯を食べるわけにはいきません」という王女としての矜持なのだろう。
「じゃあ、この苗の植え付けを頼もうかな。優しく土をかけてあげるんだ」
「はい!任せてください!」
意気込んで作業を始めたソフィアだったが……。
十分後。
「あぅ……また曲がってしまいました……」
「キャッ!ミミズさんが!」
「泥が顔に……ふぐぅ」
「氷の聖女」の面影はどこへやら。
彼女は泥だらけになりながら、悪戦苦闘していた。
どうやら極度の不器用らしい。苗はあさっての方向を向いているし、なぜか足がもつれて尻餅をついている。
だが、その姿はどこか微笑ましく、見ていて飽きなかった。
「ソフィア、休憩にしようか。冷たいキュウリがあるよ」
僕が井戸水で冷やした【氷結キュウリ】を渡すと、彼女は目を輝かせて受け取った。
「おいしい……!シャキシャキして、青臭さが全くなくて、甘い果物のようです!」
ポリポリとキュウリをかじる王女様。その顔には、泥がついている。
僕は自然と手が伸びて、彼女の頬の泥を親指で拭い取った。
「あ……」
ソフィアが真っ赤になって固まる。
僕も自分の行動に気づいて、慌てて手を引っ込めた。
「ご、ごめん!泥がついてたから、つい」
「い、いいえ……その、ありがとうございます……」
彼女は俯いて、さらにキュウリをかじった。その耳まで赤くなっている。
フェンが呆れたように「ヤレヤレ」とあくびをした。
そんな穏やかな日々が続いたある日。
農園に、予期せぬ来訪者が現れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。