第二話
それからというもの僕の身には小さな幸運が立て続けにやってきた。自信のなかったテストが来週まで延期になり、自動販売機で飲み物が当たって、遅刻しそうな日には一度も信号に引っかからず遅刻せずに済んだ。他にも色々ある。おかげで気分は上場。しかし、虹が見えたからにしては幸運があまりにも多く、些か奇妙な感じもしていた。
あの人ともう一度会ったのは前のときから二週間ほどしてからだった。前と同じく、立派な袴を着て、靴は履いておらず、小川の傍で空を見上げている。雲一つない晴天だった。
「お久しぶりです。覚えてますかね?」
「覚えている。幸運は訪れたか?」
「はい。ずっと幸運続きです。まさかこんなに続くとは思ってませんでしたよ。」
「ならよかった。」
やはり、もう一度はっきりと見ても彼の容姿は不気味だ。悪い人に見えるわけではない。ただ、頭に生えた角が人間ではないことを明確に示している。落ち着いた状況で見てみると呼吸をしているようにも見えない。本当に彼が、昔から聞いていた龍とやらなのだろうか。
何を言えばいいのかわからずにただ何となく彼の方を見ていた。素直に質問してもいいのかもしれないが、当たっているならどのように返していいのかが分からない。それに、間違ってるならばその質問はずいぶん失礼なものだろう。ならいっそ聞かない方がいい気もする。頭を捻って何を話そうかと悩んでいると突然隣の彼が笑い始めた。
「なんですか!?」
「いや、いい。龍か聞こうか。悩んでいるのがあまりにも面白くてな。」
「いいじゃあないですか!」
確かにずっと悩んでいたが、そんなに変な顔はしていないつもりだ。それなのに人が悩んでいるのを見てけらけら笑うだなんて、なんて性格が悪いのだろう。そりゃあ誰だってこんな状況になったら悩むだろう。それこそ相手に龍か聞くだなんて考えたこともない質問をしようとしているのだから。
いろいろと文句が浮かび上がってくる中、不意に違和感に気が付いた。彼はさっきなんと言っていた?
「なんで、悩んでる内容がわかったんです?」
彼は、龍か聞こうか悩んでいるのが、と言っていた。それは僕が悩んでいた内容で間違いない。間違いはないのだが、それは彼が知っているはずのないことだ。決して口に出していたわけでなく、他の誰かが知っているわけでもない。あくまで自然に、さも当たり前かのように彼はとんでもないことを口にしたのだ。
急に背筋が凍るような感覚に襲われる。本格的にやばいものと出会ってしまったのかもしれない。そして彼はまた淡々ととんでもないことを口にした。
「人間の考えていることくらいわかる。龍なら大体できるだろう。」
何を変なこと言っているんだと普通なら思うかもしれない。だが、見た目、言い方、そして彼の言ったことからそれを信じざる負えなかった。彼は龍であると言った。そして、考えていることが分かると言った。彼としては当然のことなのかもしれないが、それはこちらからしてみれば恐怖以外の何物でもない。
逃げよう。そう考えたとき、彼は何か悲しそうな顔をした。今考えていたことも、他に考えていたことも、彼には伝わっていたのだろう。どうにもいたたまれない気持ちになって逃げようとしていた足を止めた。
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