家出少年と猫~ひとなつの思い出~
@ITO_AKISHOU
7月20日 決意
7月20日 俺は家出を決意した。理由は些細なことの積み重ねだった。親との喧嘩、人間関係へのストレス、将来への不安。本当に些細なことだ。どれもいっぱしの高校生なら経験する悩みだろうしこの世の中にはもっと重い悩みを抱えている人間は五万といるだろう。普段の俺ならこんな悩みは心の中にしまっておくだろう。しかし、今回はなぜかしまえなかった。そしてふと思った。「家出しよう」と。そこからの行動は早かった。ネットで置き手紙の書き方を調べ、家出をすること、自殺をするつもりはないことなどを書き記した。スマホは親から通知が来くとおもったから持っていかなかった。その代わり、一冊だけノートを持っていくことにした。日記をつけようと思ったからだ。貯金をするのが趣味だったため格安のビジホに1ヵ月泊まれるぐらいの貯蓄はあった。今すぐにでも飛び出したかったが、現在の時刻は午後11時37分さすがにこの時間に外出するのは怪しまれると思い、家出決行は翌日の早朝に決め、眠りについた。
翌朝、3時に起きるつもりが少し寝坊をし3時30分になってしまった。顔を洗い歯を磨き、荷物の入ったリュックサックをせおって玄関の扉を開けようとした。
しかし、ここでふと親の顔が浮かんでしまった。手紙を置いてきたといえど、突然息子が消えたら心配するだろう。悩んだ末、親が寝ている寝室の扉を開け「行ってきます」と一言だけ、小さな声でつぶやいた。これ以上家にいると決意が揺らいでしまうと思い、足早に家を出た。扉を開けた瞬間蒸し暑い空気が俺の全身を包んだ。
時間が早かったためまだ日は上っていない。俺の家出が始まったんだ。初めての家出に気分も高まってきた。とりあえず駅に行こうと思い、歩き出した。家から駅までは近いので10分も歩けばついた。しかしここで、気づいた。「電車がない」現在時刻は4時15分始発の電車まであと1時間はある。幸い駅の近くにファミレスがあったためそこで時間をつぶすついでに朝ご飯を食べることにした。
「いらっしゃいませー」ファミレスに入った瞬間元気な声が俺の耳に届いた。案内された席に着き、モーニングセットを注文した。コーヒーとトーストそれにサラダ。高校生の俺には少し物足りなかったが節約のためにこれだけにしておいた。コーヒーはあまり得意ではなかったが、まだ完全には覚めていない脳を起こすために飲んだ。苦い。ご飯を食べ終えても始発までの時間は30分以上あったため、やりたいことリストを作ることにした。金には限りがあるので全部はできないが、とにかくたくさん書きだした。どれを最初にやるか決めきれなかったので、目をつぶって選ぶことにした。俺の指先が触れたのはノートの右端部分。選ばれたのは「海に行く」だった。最初ならこれぐらいがちょうどいいだろう。小さいころから出不精だった俺は今までの人生で海に行ったことがなかった。人生最初の、どうせならとびっきりきれいな所に行きたいと思った。しかしスマホを家に置いてきたため、調べることができなかった。結局、会計をするときにファミレスの店員に「海がきれいな場所はどこですか」と聞き、教えてもらった。現在の駅から十数駅離れた場所にあるらしい。少し悩んだが行くことにした。
駅に着いた頃にはサラリーマンらしき男が数人いた。ベンチで待つこと数分、俺が乗る電車が駅に到着した。早速その電車に乗り、目的地の駅に向かった。目的の駅は通っている高校と同じ方面にあったため、定期券を使い少し電車代を節約できた。電車の心地よい揺れと涼しさのせいでコーヒーによって沈めた眠気が再び襲ってきた。ここで眠ったら絶対寝過ごす。そう思ったが睡魔にはあらがえず眠りに落ちてしまった。目が覚めて車内の電光掲示板を見ると目的地の数駅前だった。背伸びをし、眠気を覚ますと窓の外を見た。太陽はいつの間にか上っていたらしく、燦燦と輝いていた。ぼーっと外を眺めて数分、目的地の最寄り駅に到着した。電車を降り改札から外に出た瞬間、息をのんだ。「うつくしい」自然と口からその言葉がこぼれ落ちた。海は美しく輝いていた。テレビで見た海とは全く違う。太陽の光が海に反射し、きらきらと輝いている。砂浜を一歩一歩踏みしめ、海へと近づいて行った。波の音や鳥のさえずりが美しい雰囲気を作ってくれる。心の中にあった家出への少しの不安が消えていく感じがした。海に近づき波を触ってみた。冷たい。しかし蒸し暑い外の気温にはこれぐらいの冷たさがちょうどよかった。靴を脱いで足を入れてみた。やはり冷たい。気持ちが昂る。足でパシャパシャと一人水をけった。少しむなしかったが、人生初の海だ。それ以上に楽しい。どれくらい時間がたっただろう。浜辺を散歩していたおじいさんに声をかけられた。「こんな朝早くから元気だねえ」高校生にもなって一人パシャパシャしている姿を見られたと思うと少し恥ずかしくなった。「あはは、僕人生初めての海なんです」と答えた。「そうかそうか、じゃあここら辺に住んでいる人じゃないのか。今日は観光かい?」「実は僕家出中でして...」「ほう、家出か。青春じゃのう。わしも若いころはよく...ってこんな爺さんの話なんか聞きたくないか。まあ、ゆっくり羽を伸ばすとすればいいさ。」そう言いおじいさんはまた散歩に戻っていった。海に入ることは満喫したので、砂浜にレジャーシートを引き腰を下ろした。「景色を見ているだけでも楽しい。普段の俺ならこんなこと思わないが、家出中というバフがかかるだけでこんなにも気持ちは変わるのか」と心の中で思った。リュックサックを枕にして寝転がる。しばらく目を閉じていると再び眠りについた。
家出少年と猫~ひとなつの思い出~ @ITO_AKISHOU
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